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百花の少女達 4

キャラ顔見せ回です。2年生の先輩、カンナとマユミ。よろしくお願いします。

 部室棟の暗い階段を上り、2階の奥に進む。本来部活名が書かれるドア横のプレートには『EIEB対策室』と書いてある。エクストラの名付け親?の3年生が考えた略称でイーブと読むらしいが、定着せずに今に至る。

 ドアをノックすると「ど〜ぞ〜」という気の抜けた声が返ってきた。アヤメがドアを開け先に入る。後ろに続いて私も入ると、壁に据えられた黒板の前に2人の少女が立っていた。


「あ〜、サクラ大丈夫だった?もう元気になった?」


 声をかけてきたのはオレンジに近い赤髪を後ろで括った、朱色の瞳が輝く少女だ。2年生で名前はカンナ。近接攻撃担当で武器は己の拳という元気っ娘だ。


「昨日はお疲れ様。適当に座ってね」


 ふんわり微笑む翡翠の瞳が優しげな少女はマユミ。同じく2年生の弓使い。三つ編みにした深緑の髪を肩から流している。

 ゲームではもう1人の2年生を加えた3人組がメイン扱いでストーリーが回る。最初にエクストラとの遭遇シーンが描写されるのも、アクセプタントになるのも、チュートリアル戦闘に出るのも2年生である。キービジュアルもカンナが中心だし、主人公という扱いなのだろう。


 促されるままアヤメと並んで椅子に座る。この4人が昨日出撃したメンバーだ。


「では、振り返りを始めま〜す」


 カンナが黒板にチョークで丸を4つ書く。これが私達の配置を表す。そして左側に大きな四角。こっちがエクストラの集団だ。

 今までの経験から、エクストラはアカメデイア周辺の森から出現し、校内を目指して進むパターンが見えてきている。私達アクセプタントはエクストラ出現の気配を察知できるので、迎撃に向かうという形だ。


「昨日は〜、あたしが前に突っ込んで撹乱、アヤメが前線を支えてマユミが取りこぼしを掃討、という戦術でした〜」


 丸2つから矢印が伸び、エクストラの四角の中に突入していく。もう1つの丸からは扇状の線が引かれ、弓の射程を表す。

 サクラを示している丸からは何も出てこない。そういう扱いなのは分かっているが、ちょっと凹む。


「で、『ネズミ』相手の時は良かったんだけど〜、『ニワトリ』が集団で来た時に前線を突破された、と」


 エクストラを表す四角からびゅーんと矢印がサクラの丸に伸びる。『ネズミ』や『ニワトリ』はエクストラの見た目や大きさ、動き方から付いた名称だ。まあネズミと言っても仔牛みたいなサイズだし体の半分は口だしで似ても似つかないのだが、相対的に小さくてチョロチョロ動くのでそう名付けられている。ニワトリは軽自動車くらいのサイズで飛ぶように突っ込んでくるタイプ。どちらもゲーム的には雑魚である。他にも『ウマ』だの『イヌ』だの、動物モチーフの名前が付けられている。


「後はまあわりとグダグダの乱戦だったね〜。撃退はしたけど〜」


 カンナがぐちゃぐちゃっと線を引いてチョークを置いた。アヤメがきゅっと手を握りしめる。


「すみませんでした、カンナ先輩。私が前線を維持できなかったから…」

「アヤメのせいじゃないよ。突破された時の対応は私の役目だったし」


 マユミが優しく声をかけるが、アヤメの表情は険しいままだ。


「どっちかっていうと、前に出すぎな誰かさんのせいじゃないかな?」

「いや〜、はは…」


 マユミがじとっと睨むと、カンナはすいっと目を逸らせた。拳が武器のカンナは敵に接近しがちになる。敵陣に切り込んで蹴散らす姿は勇ましいが、周囲が見えなくなりがちで連携という点では問題が出るのだ。

 アヤメは薙刀なのである程度の範囲の敵には対応できるが、カンナとの間隔が開いたところを突破された。マユミは後方から弓で援護するが、連射がきかないので数には対応できない。そしてサクラは為す術もなくやられた、と。


「…えーと、いいですかカンナ先輩」

「お〜、どうぞどうぞ」


 私が小さく手を挙げると、カンナが渡りに船と乗ってきた。


「あの、誰が駄目だったとかじゃなくて次はどうするか、ですよね?誰が駄目だって言ったら私が一番役に立ってないし」

「サクラは駄目なんかじゃ…」

「だから、私の動き方を変えればいいんじゃないかと思うんです」


 アヤメがすぐさまフォローしようとするのを遮り話を続ける。ゲームのサクラは強く出られなくてすぐ黙ってしまっていたけど、私ならもう一押しできる。


「動きを変える?」


 マユミが首を傾げる。後方で全体を見ながら矢を放つマユミは、状況分析能力に優れている。基本的におっとりしているけど、冷静な判断ができる人だ。


「はい。具体的には──」


 立ち上がり、黒板に向かう。チョークでサクラを示す丸から左方向に矢印を引き、先端にもう一個丸を書く。


「ここまで私が前に出ます」

「へぇ〜」

「何言ってるの!?」


 面白そうに見ているカンナと、はっきり反対の表情のアヤメ。マユミは何も言わずに図を見ている。


「私の攻撃力があてにならないのはよく分かってるよ、大丈夫」

「そういうことを言いたい訳じゃ…」

「だから、ここなの」


 前線の一歩後ろ。

 アヤメに微笑みかける。サクラを大切に思ってくれて、守りたいと思ってくれているアヤメ。できる限り安全な後方に居てほしいという気持ちはよく分かるが、一番安全なのはここなのだ。


「ここなら、アヤメが守ってくれるでしょ?」

「…」

「ほぉ〜」


 何か言おうとして言葉にならないアヤメを、カンナがニヤニヤしながら眺めている。アヤメの斜め後ろ。この位置なら、サクラがエクストラを少しでも足止めできれば、次の瞬間にはアヤメが倒してくれる。

 実際のところ、ゲームでもある程度攻撃範囲の広いキャラの斜め後ろがベストだった。サクラのところまでエクストラが迫るのは前衛が突破された時なので、後衛の位置にいようがどうしようもない。むしろサクラを助けるために前衛を後ろに下げなければいけないので、余計に前線が崩壊する。サクラにはほとんど攻撃力がないとはいえ一応打撃は通るので、足止め程度のつもりで前に出しておけば前衛キャラは移動せずにエクストラを狩ることができるのだ。

 …伊達に2年間サクラを使い続けてきたわけではない。サクラの活用法ならおそらくトップランカーだ。そんな奇特な人間があの過疎ゲーにどれだけ居たのかは知らないが。


「よろしくね、アヤメ」

「…はっ、…」

「まあ、悪くはなさそうね」


 マユミが翡翠の瞳を細めて黒板を見ている。アヤメは色々思うところがあるのか、首から耳まで真っ赤だ。


「あ、ごめん。嫌なら…」

「嫌じゃない!」


 アヤメの考えもあるだろうと口を開くと、食い気味でアヤメが叫んだ。


「嫌じゃ、ない。やる。私が、守る」


 アヤメの紫の瞳に、ぐっと光が宿る。

 昨日も「私が守る」と言われたけれど。昨日と今日じゃ意味が全然違う。

 ただ守らなきゃいけない弱い存在ではなくて、お互いに信頼しているからこそ守るのだ。


「ありがとう。よろしくね、アヤメ」

「うん。よろしく、サクラ」


 長い黒髪がさらりと揺れ、少し上気した頬が優しくほころぶ。こうして笑うと、アヤメは本当に正統派美少女だ。思わずどきっとしてしまう。

 横でニヤついていたカンナの頭をマユミが半目で引っ叩くのが見えた。「次の戦闘で『ウマ』に蹴られるよ」とはどういう意味だろう。

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