パステルカラーストーム 5
チャイムが鳴る頃に食堂に行くと、キョウカはずいぶん前から待っていたようで笑いかけてきた。そのままアヤメと三人、グラウンドに向かう。終業式の今日は基本的に部活はない。自主練で走っている運動部の子がぽつぽついる程度だ。
グラウンドの端に移動し、それぞれ自分の武器を出す。キョウカが胸の前で鏡を抱えるようにすると、鏡面が明るく光り戦装束に変身していく。キョウカは巫女装束そのまま、ただし袴は浅葱色だ。額と胸にも装飾的に銀に輝く小さな鏡が付いている。
サクラとアヤメも変身し、三人で向かい合う。さて、どうするか。
「とりあえず、その鏡で何ができるのか試してみよう。ちょっとだけいい?」
アヤメが薙刀の石突で鏡をコツンと叩く。鏡から何か反撃が返るでもなく、傷がつくわけでもない。ただ静かに、鏡は風景を反射している。正面に立つアヤメの姿も、その手に持つ薙刀も映し込んでいない。くるっと薙刀を回して今度は刃を打ち付けるが、キンと硬質な音を響かせるだけでやはり変化がない。
「うーん、何も起きないか」
「ちょっと私も」
サクラの杖が軽く鏡を叩くが、やはり何も変化しない。それならと杖を思いっきり振り上げ、力一杯振り下ろす。カァンと金属音が鳴るが、キョウカは何事もなかったかのように立っている。
「何も起きないっていうか…攻撃を消してる?」
「ああ、なるほど。映らないってことは、無かったことになるのか」
アヤメが改めて薙刀を振り抜く。エクストラとの戦いでその体を容易に切り裂く刃は、同じくあっさり鏡に止められた。鏡を構えるキョウカに衝撃が伝わった様子もない。
「ごめんね、いきなり」
「いいえ。こんな力があるなんて知りませんでした」
キョウカは自分も驚いたというように鏡を覗き込んでいる。サクラの杖のノックバックも効かないし、ゲーム通りの性能ということだろうか。
ゲームでの鏡の効果は通常攻撃完全無効。鏡で敵を攻撃できない代わりに、相手の攻撃も効かない。真章の最初の方では一応味方プレイアブルキャラだったキョウカは、最前線に置けば頑丈な壁だった。敵の必殺技や状態異常攻撃は通るので、無敵というわけではなかったけど。
「すごいね。どこまで耐えられるのかは試してみなきゃだけど」
「ちょっと、怖い、です…」
「今すぐでなくてもいいと思うよ。色々びっくりだよね。私も最初そうだった」
怯えた様子でアクアマリンの瞳を潤ませるキョウカに、アヤメが優しく寄り添う。カンナだったらガンガン試しそうだけど、そこまでスパルタでは行かないらしい。
「じゃあ、どれくらい動けるか見てみよう。私についてきて」
アヤメが先導し、グラウンドを駆ける。変身後の身体能力であれば問題ないはずのスピードだが、キョウカは早々に音を上げた。ほぼ普通の子と一緒、というか変身前のサクラ並みだ。いやサクラもここ最近の朝練でグラウンド一周くらいなら鼻から血の味がし始めたりはしなくなってきたので、それ以下かもしれない。
「ごめん、な、さい。運、動は、苦手、で」
「謝ることじゃないよ。そういうのも含めて、どう戦うかを考えていくんだから」
口調は優しいが、さすがのアヤメも困り顔だ。ぜいぜい途切れ途切れに言葉を発するキョウカの背中をさすってあげている。
変身を保っているのも辛そうなキョウカを見て、今日はここまでにしておこうということで解散になった。少し落ち込んだ様子だったので食堂でお茶でも、と誘ったが、部屋で休みますと断られてしまった。とぼとぼと寮に戻るキョウカを見送りながら、アヤメがぽつりと呟く。
「…どうしようか?」
「うーん、無理に急がなくてもいいんじゃないかな。すぐにエクストラと戦わなきゃいけないとかではないし」
あくまでアクセプタントの仲間として戦い方を考えているアヤメと違い、私はキョウカをどちらかというと敵として捉えている。今までもゲームとは変わっているところがたくさんあるので真章通りのキャラかは分からないが、少なくとも彼女は普通の人間ではない。
「まだお互い何も知らないし、まずは色々話してみなきゃ。見かけたら声かけて、食事に誘ったりしていこう?」
「うん、そうだね。焦っても仕方ないか」
少しすっきりした様子のアヤメと別れ、自室に戻る。キョウカのことも考えなきゃいけないが、私にはサクラ帰省問題もある。ちょっと半日くらい散歩して帰ってくるとかじゃダメだろうか。大晦日までには一度帰ると言った手前、何もしないわけにもいかない。
ここ数日全く進まない思考に嵌っていると、ドアをノックする音が聞こえた。アヤメかな。気分転換で一緒におやつを食べに行くのもいいかも。
「はぁい。どう…ぞ?」
開けたドアの向こうには、微笑みを浮かべたキョウカが立っていた。




