パステルカラーストーム 2
「ほ〜、じゃあキョウカもアクセプタントなんだね〜」
「ええと、そのアクセプタント?っていうのが何かよく分からないですけど、はい」
キョウカの前にもお茶とおまんじゅうが出されて、歓迎ムードである。皆の質問責めに遭いながら、遠慮がちにお茶に手を付けるキョウカを見る。
背格好はほぼサクラと同じだ。線の細い姿で淡いピンクと水色なので、並べば対のようだろう。どこかおどおどした受け答えもあいまって、登場時はキャラ被りを指摘する声も多かった。
キョウカが出てくるということは、今は真章の時間軸ということだろうか。新章まだなのに?いや私が気付いてなかっただけで既に新章終盤だったとか?新章から真章は時間経過がはっきりしないというか、真章がいつの話なのか分からないので被っていても不思議はないのだけども。
「ねえ、あの子知ってた?」
アヤメが耳打ちしてくる。私も額を近付けて、小声で返す。
「ううん。他のクラスにしても、見たことないと思う」
「だよね。私も見覚えがなくて」
いくらクラスが違うにしても、全寮制の学校だ。生活を共にする生徒を、一度も見かけた覚えがないというのはおかしい。どれだけ影が薄くても、ああ何年生の、くらいの判別はつく。
たぶんこの部屋の全員が感じたはずの、小さな違和感。私だけがその答え、彼女の正体を知っている。
「それで、今日勇気を出して来てみたんだ」
「ごめんなさい。私…」
「ああ、責めてるんじゃないよ。怖いのが当然だから」
カズラが優しく話しかける。キョウカが今までエクストラとの戦闘を避けていたのは、怖くて勇気が出せなかったから、ということになっている。あの襲撃の日に声を聞き、その力を受け入れていながら、踏み切れなかったキョウカ。その理由は。
「どれどれ〜、それじゃちょっと見せてもらいましょうかね〜」
「あ、はい。でも、本当に役に立つのかどうか分からないんです」
「大丈夫よ。どんなものだったとしても、何か意味があるはずだから」
マユミに促されて、キョウカが両手を前に出す。ぐっと眉間に力を込めたと思ったら、その手に金属製の円盤が現れた。
「これは…鏡?」
カズラが身を乗り出して、キョウカの手にある円盤を覗き込む。直径30cmほどで厚みのあるそれは、片面には幾何学的な紋様が彫り込まれているが反対側はつるつるで、部屋を映し込んでいる。歴史の教科書で見る銅鏡によく似ている。
「うわ、何これ。面白いね〜」
カンナが鏡面に手をかざしたが、その手は映らない。顔を近付けても、映っているのは背景の部屋の壁だ。そこにカンナがいないかのように、鏡はただ部屋だけを反射している。
「うーん、何だろうね。生物は映らない、ってことかな?」
ナズナも鏡を覗き込んでいろんな表情を浮かべているが、何をしてもそのキラキラした顔が映ることはない。
「んで〜、これでどう戦うの?投げる〜?ビームでも出す?」
シュッシュッと鏡に向かってシャドウボクシングみたいなことを始めたカンナに聞かれて、キョウカが困ったように眉を下げる。
「分からないんです。戦えるんでしょうか、これ」
「分からない?使い方が分からない、ってこと?」
マユミが不思議そうに首を傾げる。アクセプタントはその力を得た時、その使い方も同時に降りてきた。というか弓やら剣やら、どう使えばいいのか一目瞭然の武器がベースなので悩むことが無かった。その武器を振り回しているうちに、自然にスキル使用のイメージが湧くという感じだ。サクラの杖は武器と言えるか微妙だが、使うとしたら叩くくらいなので分かりやすい部類だろう。
対してキョウカの鏡は、武器とするには悩むところだ。フリスビーのように投げられそうな気もしなくはないが、サカキの槍のように無限に湧いて出るという感じでもないらしい。投げたらそれっきり、では怖くて使えない。
「自分でもどうしたらいいのか分からなくて。それで、なかなか言い出せなくて。ごめんなさい」
「ううん、今まで不安だったわね。今日は来てくれてありがとう」
視線を落とすキョウカに、マユミが優しく答える。アクセプタントとして力を得て、今までエクストラの襲撃を感知しつつも行動できなかったキョウカ。一歩を踏み出した彼女を、先輩として受け入れる。そんな場面からゲームの真章は始まった。今日のこの展開そのままだ。
湯呑みに残ったお茶をそっと飲み込む。この先の展開もゲーム通りに進むのであれば、彼女はサ終誰得鬱展開の中心になる。キョウカ──鏡花。鏡に映った花。実態を持たない虚像。その俯いた瞳に映る色は、サクラからは見えなかった。




