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パステルカラーストーム 1

 放課後に臨時部会をやるということで、部室に向かう。冬休みに入る前に話し合っておきたいことが色々あるそうだ。サクラとしての記憶に、夏休み前にも似たような話し合いがあったとおぼろげに残っている。エクストラにお盆休みや年末年始休暇があるわけではない。アクセプタント全員が一斉にアカメデイアから離れるわけにもいかないので、日程調整が必要なのだ。

 アヤメと二人、いつものように薄暗い部室棟の階段を上がる。暖房がない冷え切った廊下を抜け、部室のドアを開けるとカズラが灯油ストーブの前で丸まっていた。青髪眼鏡クールキャラは寒さに弱いらしい。制服にコートとマフラー、厚手のタイツの完全装備だ。ストーブの上でやかんがちりちり湯気を上げている。


「今日も寒いね。はぁ」


 ちらりと私達を見るが、ストーブの前から動こうとしない。早めに来て準備しようとしてくれていたのか、テーブルの上にはお菓子の包みが置いてある。軽く会釈をして、アヤメと一緒に椅子を出したり湯呑みを用意したりと、部会の準備を進めていく。


「お〜、早いね〜」

「準備してくれてたのね。ありがとう」


 カンナとマユミもやってきた。少し遅れてナズナとサカキも部室に入ってくる。全員集合する頃には活動温度になったようで、カズラも席に着いた。


「じゃあ、始めましょうか。冬休みのことなんだけど、みんなお正月には帰省するよね?どうしようかなと思って」


 マユミが急須から緑茶を注ぎながら話し始めた。温かな黄緑色からふんわり立ち上る香りが心地よい。本日のお茶請けは甘さ控えめのおまんじゅう。山芋が入っているんだったか。


「僕は大晦日と元旦は家に戻ってないといけないんだよね。うるさい家でさ」


 ナズナが困り眉で言う。ゲームでも名家のお嬢様設定だったし、自由そうに見えても色々柵はあるようだ。


「あたしはずっとここに残っててもいいけど〜」

「おじさんに怒られるよ。一度も顔を見せずにいたらここまで怒鳴り込んでくると思う」

「うへぇ」


 カンナがテーブルに突っ伏して嫌そうな顔をしている。カンナとマユミは幼馴染で、カンナの家は武術の道場だったか。おじさん…カンナのお父さんはゴリゴリの武闘派。カンナを物理的に黙らせられる人という描写だった。


「私も元旦は戻らないとダメです。どんなに短くても二日はいないと」

「同じく。親族の集まりに顔を出さないと後で何言われるか分からない」


 アヤメとカズラもお正月は実家で過ごさなければいけないらしい。地域によって多少幅のあるお盆と違って、元旦というのは完全固定だ。日程調整しようにもなかなか難しい。


「我が座は風の導きによりこの地に在る。それを揺るがす野分などあろうものか」


 サカキが緑茶をゆっくり啜りながら言う。うーん、私はいつでもいいよ、という解釈で合ってるだろうか。


「私もいつでも大丈夫です。どこかで顔を出しておけば安心すると思うし」


 正直サクラの家庭がどうなっているのか分からないけど、お正月で親族が集まるような場所は避けたほうが無難だろう。戻るにしても冬休みの最初か、終わる直前がベター。戻らなくて良いならそれがベスト。


「うーん、どうしようか。サカキ先輩とサクラがお正月に残れるなら、後は前半組と後半組に分かれたらいいかな?」


 マユミが紙にそれぞれの予定を書き上げていく。元旦の朝に戻ってくる組と午後に出発する組を合わせれば、アカメデイアに居るのが三人以下になることは無さそうだ。

 ほっとした気持ちになるのと同時に、疑問がじんわり頭をもたげてくる。そもそも、エクストラに突破されるとどうなるんだ?

 ゲームだったら突破されたらゲームオーバー、ログイン画面に戻る。ここではエクストラにやられたら死ぬだろうというのは、今までの戦闘からも分かる。でも、もし誰もいない時にエクストラが現れたら?あいつらはどこを目指して進んでいく?最初は一般生徒を含めて無差別に襲ってきた感じだったけど、仮にお正月で誰もおらず、閉鎖された学園にエクストラが現れたなら何が起きるのだろうか。

 私達アクセプタントは、本能的にエクストラを悪と感じこうして対処方法を考えている。でも、実はエクストラがどんな存在で、何を目的としているのかについて何も知らないのだ。


『奴らの動きにどんな意思があるのか、あるいは無いのかすら分からないからね』


 ハロウィンの時にカズラが言っていた通りだ。何も分からないまま、私達は戦い続けている。こうして話し合いをしている時にも、大元の「なぜ戦うのか」について疑問を持つことはない。何か不自然というか、都合よく進んでいるというか。


 うーんと考え込みながらおまんじゅうを食べていたら、ココンとノックの音がした。ざわついていた皆の口がぴたりと止まり、視線がドアに集まる。


「ど〜ぞ〜」


 のんびりしたカンナの声に、恐る恐る、という感じでドアが開いていく。薄暗い廊下には、小柄な少女が立っていた。

 アクアマリンのような瞳が、不安げにこちらを窺っている。淡い水色の髪はすとんと肩まで流れ、ドアノブを押さえる手の反対の手は胸元でぎゅっと握られている。儚げな、怯えた小動物のような姿。


「あの…その」


 躊躇うように視線が彷徨う。一人ひとりを見回し、次に何を言えばいいのか悩んでいるようだ。


「まず入って?廊下は寒いでしょ?」


 マユミが優しく微笑むと、少女は意を決したように部室に入り、ドアを閉めた。落ち着かない様子で、制服のスカートをいじっている。


──なんで今ここに?


 両手にじんわり汗をかいていくのが分かる。私はこの子を知っている。

 『百花乱舞』は1周年で運営が変わってからイベント以外のストーリーが投入されなくなり、アクティブユーザーは減り続けていた。そして1.5周年を過ぎた頃に、唐突に投入された新キャラ。いつの間にか増えていたメインストーリー『真章』。新章までとはカラーが全く違うストーリーは、正当な続編と捉えるべきなのか、ゲームを畳むための方便と見るべきなのか。サ終後も数少ないファンサイトや攻略wikiで議論が続いていた、賛否両論の展開。


「それで〜、どなた様?」


 カンナの質問の答え。この子は。


「あの、私、キョウカです。1年生です」


 キョウカ。真章で投入された新キャラ。

 通称浅葱色の悪魔は、そう言うとぎこちなく微笑んだ。

カクヨム連載作をこちらにも移植するという形で投稿していたのですが、なろうの方がカクヨムを追い越してしまいました。連載ペース調整のため、ここから先は週二回更新にしていこうかなと思います。いつがいいのかよくわからないので、とりあえず毎週水曜日・日曜日更新にしてみようかなと。


ちょこちょこ変えるかもしれませんので、お付き合いいただけるようでしたらブックマークお願いいたします。

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