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真昼の流星群 17

真昼の流星群本編、これで終了となります。

お付き合いくださった皆様、ありがとうございました。

「う゛あ゛〜…」


 おっさんみたいな呻き声がサクラの口から洩れる。ぬるめのお湯に肩まで浸かると、閉じていた手足の先の血管が開いていくのを感じる。天国。ただその一言しか思い浮かばない。乙女の恥じらいなど投げ捨て、だらーんと手足を伸ばす。

 あの後、びしょ濡れのまま食堂に逃げ込んだ。食堂のおばちゃん達が慌ててタオルと温かいココアを差し入れてくれて、浴場のボイラーを回す手配までしてくれた。甘いココアで胃袋から温まっているうちに、まだぬるいだろうけど早く行っておいで、と追い立てられるように大浴場に移動してきたのだ。マユミが途中で寮に寄り、着替えを取ってくるように言ってくれなければ、また冷たく濡れた制服を着て帰るところだったが。


「あー、沁みるねぇこれは…」


 横にナズナが入ってくる。ボーイッシュな印象とは対照的に、きちんとメリハリのある体型はさすが3年生というかなんというか。青白かった肌に血が通い、薄赤く染まっていくのが何とも色っぽい。


「いや〜、昼から堂々と風呂ってのもいいもんだね〜」


 ざぶざぶ湯を蹴立ててカンナがやってきた。堂々と前を隠す気もない姿の後ろから、きっちりタオルで体を隠したマユミがついてくる。カンナ、腹筋割れてるんだな。さすがだ。


「暖房でボイラーが動いてたから、すぐにお湯が沸いたんだって。後できちんとお礼を言わないとね」


 ふうっと息を吐きながらマユミが深緑の髪を掻き上げる。アクセプタントの中でも一番女の子らしい体型のマユミは、こう言ってはなんだがいちいちエロ…いや何でもない。

 サクラ?なんて言うんだっけこういうの、シンデレラバスト?いやもう幼児体型でもすっとんでも好きに呼ぶがいいさ。ふん。


「それにしても、サクラはすごいね〜。あんなことができるなんて知らなかったよ、ホント」


 ばしゃばしゃお湯を掻き混ぜながらカンナが言う。あんなこと、というのは回復スキルのことだろうか。正直私もサクラのスキルについては知らなかったから、今日の結果は偶然だ。

 今日の感じだと、発動したスキルは状態異常無効+HP回復?ゲームだと複数の効果があるスキル持ちのカードはSSRくらいだったけど。通常はカードスキルが状態異常無効だったら杖の効果を自然回復にするとか、組み合わせで対応していく感じだった。もしかしてサクラ、基礎スペックはかなり高い?


「サクラがいなかったら危なかったかもね。エクストラだけならともかく、雨がこんなにキツいとは思ってなかった」


 ナズナも調子を取り戻してきたようで、いつもの胡散臭いくらいのキラキラスマイルだ。皆が褒めてくれるのは嬉しいが、こういう展開って新章ストーリーの中で進んでいくはずなんだけどな。少なくとも「真昼の流星群」でサクラが活躍する展開は無かったはず。もし活躍してたら、もっと印象に残っていただろうし。


「今回の戦闘はみんなできちんと振り返りましょう。これからもっと寒くなるし、戦い方を考えておかないと」


 マユミも血色が良くなってきている。確かに自然環境っていうのはゲームには無かった要素だ。今回だったらたとえばコートを持っていくとか、水筒に熱いお茶を準備するとかだけでもかなり違ったはず。

 ひ弱なサクラが比較的元気だったのは自動回復の中心だったのもあるが、大きなとんがり帽子にローブという服装も影響している。露出少なめぶかぶか魔女っ子装束がこんな形で役立つとは、キャラデザの人もびっくりだろう。


「あ〜、あったまったらお腹空いてきちゃった。食堂行こ〜」

「私はもう少し温まりたいかな。行くなら一人でどうぞ」

「え〜、一緒に行こうよ〜」


 まあとにかく、みんな無事で良かった。カンナとマユミがいつも通りの掛け合いをしているのを見て、へにゃっと頬が緩む。

 広い浴場に、四人の声だけが響く。結局そのままお昼休みの鐘が鳴るまで、私達はお風呂に浸かっていたのだった。




「あれ、サクラ?」


 お風呂を上がって食堂に向かう途中、アヤメとすれ違った。お昼休みももう終わりになる時間なので、食事を終えたところらしい。サクラが教室を出たのが1時間目の終わりだから、エクストラとの戦いはせいぜい2時間くらいだったのか。なんだかめちゃくちゃ密度の高い半日だった。


「アヤメ、あのね…」

「エクストラも片付いたし、ちょっとお風呂に行ってたんだよ。みんなで」


 今日の戦いを報告しようとしたら、またナズナが横から入ってきた。するっとサクラの肩に手を回し、ものすごーく楽しそうな笑みを浮かべている。


「お風、呂」


 アヤメがぴしっと固まる。相変わらずこの二人は相性悪いな。


「え、待って。何で」

「何でって、雨降ってて寒かったから」


 当たり前のことを聞いてくるな、と思ったら、がしっと両肩を掴まれた。そのままナズナから引き離される。


「いや、そんなのダメでしょ」

「?何が?」

「何がって、それはその、分かるよね?」

「どうしたのアヤメ?」

「どうしたのって、だってお風呂だよ?」

「うん、お風呂だけど」


 いつも一緒にお風呂に行ってるのに何だというのだ。よく分からないテンションのアヤメに首を傾げていると、後ろからナズナの爆笑が聞こえてきた。


「いやーやっぱり面白いね。いつまでもそのままでいてね、サクラ」


 お腹を抱えて笑うナズナと、頭を抱えているアヤメ。雨はいつの間にか上がり、うっすら差す日に濡れた落ち葉が輝いていた。

Q:お風呂回って必要なんですか?

A:はい。


次回はエピローグです。

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