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真昼の流星群 16

「マユミ先輩!」

「行け!」


 サクラが悲鳴を上げるのと、カンナの怒号が響くのが同時だった。ナズナがボスに向かって飛び出す。連続して胴体に切り掛かり、姿を隠すのを防いでいる。

 ナズナの背中を追いながら、遠くマユミの様子を窺う。カンナが抱きかかえながら横にしているので、とりあえずすぐに後方に下がらなければいけないような状態ではないようだ。でもこのままじゃ…。

 思っている間に、次の轟音が響く。爆炎の衝撃波で雨粒がバチバチと体に当たり弾けた。上空で砕ける感じが、さっきの状態異常攻撃と同じ。重ねがけできるの!?

 杖を握る手に力が籠る。サクラの回復は、何をどこまで回復できるのか。ゲームならカードに対応したスキルがあった。HP回復とか一定時間状態異常無効とか、そのステージの特性に合わせてどのカードを選ぶのかも戦術のうちだ。

 でも今は?この前のボス戦でアヤメに使った時は、HP大回復って感じだったけど。スキル発動で桜の花びらが舞い散る演出はどのカードでも一緒だ。正確な効果は分からない。一度使ったら再使用までどれだけかかるのかも不明。タイミングを間違えれば、もっと最悪の状況で何もできない、ということになりかねない。

 目を凝らして空を見上げると、何か暗い色合いの膜が降ってくるのが見える。あれがさっきの攻撃の正体か。今のマユミがもう一度あれを耐え切れるか?

 まず今を凌ぎきる。そう心を決めて両手で杖を天に突き出すと、宝玉が強く光った。溢れ出る花弁が空に舞い上がり、膜を押し上げるように広がる。花びら一つひとつが膜に触れる度に小さく発光して消えていくので、全天に蛍が飛んでいるようだ。

 膜を完全に溶かしきると、残った花びらがちらちらと降り注いできた。濡れた地面に仄かな桜色を残してそれが消えると、すうっと体が軽くなる。喉を込み上げてくる気持ち悪さが消え、景色まで明るくなったみたいだ。体を打つ雨も気にならない。


「──ッのヤロッ」


 赤い砲弾が横を飛んでいったと思うと、ボスの巨体に突き刺さった。連続して起こる爆発で金属質な脚が数本まとめて吹き飛ばされ、バランスを崩した砲塔が大きく傾いだ。

 それがカンナだと気付くのに数秒。暴風のような勢いに唖然としているうちに、巨大なエクストラの体がゴリゴリ削られていく。

 いやフォーメーション!慌てて後ろを振り返ると、マユミも立ち上がって弓を引いていた。とりあえずは無事、らしい。カンナとは反対側からナズナが斬りかかる。両側から前衛ツートップの攻撃を受け、巨体がじりじり後ろに押されている。

 足掻くように砲身が天を向く。また投射攻撃か、と身構えると、砲塔を囲むように次々と爆発が起きた。


「させっかよゥらぁ!」


 朱色の瞳を爛々と輝かせるカンナからは、普段の間伸びした言葉遣いが完全に消えている。ゲームのストーリーでも仲間が、特にマユミが傷付けられるとこうなる描写があった。通称バーサーカーモード。正直怖い。

 砲身そのものを吹き飛ばすように大爆発が起き、『ネズミ』が撒き散らされる。ビタビタと叩き付けられ転がる『ネズミ』の群れを囲むように、無数の剣が円を描いた。


「そろそろ終わりにしようか」


 バチバチッと檻のように稲妻が走り、辺り一面が真っ白に光った。眩んだ目が元に戻ると、エクストラだった黒い靄が漂い、ボスは完全に動きを止めているのが見えた。ナズナのスキル『電撃』。広範囲の敵に大ダメージ、スタン効果をプラス。パチッと火花を散らす巨体を、金色の刃が一閃する。両断されたその断面からぐずぐずと溶けるように靄が立ち上り、雨に流されていった。

 あちこち薙ぎ倒され焦げている薄の海からは、もうエクストラの気配は感じられない。どうやらこれで終わったようだ。


「マユミ!」


 カンナがいつの間にかすぐ後ろまで近付いてきていたマユミに駆け寄る。目付きが普段のカンナだ。


「だいじょ〜ぶ?もう辛くない?」

「ええ。事前の打ち合わせを守らずに飛び出していった誰かさんを追いかけられるくらいには元気かな」

「いや〜、だってさ〜」


 マユミも顔色はまだ悪いが思っていたよりは元気そうだ。ふうっと体に入っていた力が抜ける。ナズナがサクラの横に立ち、濡れた髪を掻き上げる。いちいち細かい動きが絵になる人だな。


「これで片付いたみたいだし、とりあえず」

「はい」


 にっこり笑う唇が、細かく震えている。よく見ると両腕にびっしり鳥肌が立っている。


「お風呂、行こっか」

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