真昼の流星群 11
冷たい雨が、冬枯れた景色の境界を曖昧にする。第二グラウンドには雨を遮るものは何もない。帽子をかぶっているサクラはまだいいが、他の3人はずぶ濡れだ。変身中は環境の影響を受けにくいとはいえ、ずっしり濡れている感覚は精神的に負担になる。変身を解除して休憩することもできず、体力も奪われていく。長引けば長引くほど、悪化し続ける状況だ。
「突然現れた…というより、近付くまで見えなかった、という感じだと思います」
今の戦闘を待機していたマユミとナズナに伝える。お日様笑顔のナズナも、さすがに少し萎れて見える。
「見えないエクストラ、か。他に何か気付いたことはない?」
マユミが緑の髪から雫を滴らせながら考え込んでいる。遠距離攻撃の弓使いでは、見えなければ戦いようがない。
「ん〜、とりあえず見えさえすれば普通のエクストラだと思うよ?ガンガンぶっ叩けばいいだけだって」
カンナは何でもないことのように言っているが、あの距離で瞬時に反応してガンガンぶっ叩けるのはそれ自体が才能だ。誰にでもできることじゃない。
「いつも通り、僕達は前に出て戦えばいいんじゃないかな。やりにくいかもしれないけど、倒せないわけじゃないし」
ナズナはカンナ寄りの考え方のようだ。前衛として近距離での戦いに慣れている二人らしい。
「…そうね。あんまり話してる時間もないみたい」
マユミが翡翠の瞳を細め、森を見る。どうやら次のエクストラが近付いているようだ。
「じゃあ、訓練通りに。カンナとナズナ先輩は左右、サクラは一歩下がって中央。私は──」
「えっと、ちょっとだけ変えませんか?」
小さく手を挙げて発言したサクラに、皆の視線が集中する。マユミの発言を遮ってしまったが、今は仕方ない。
「訓練通りだと、横をすり抜けられた時にマユミ先輩が危険だと思います。見えない相手を正確に狙うのは、さすがに厳しいでしょうから」
ゲームの時の鉄板編成はマユミとサカキの遠距離2枚と前衛タンクのカンナ、それと攻撃範囲の広いアヤメかカズラだった。私はサクラを必ず突っ込むから無駄に難易度を上げていたが、カンナに食いついて出現した敵を厚めの遠距離攻撃で狩り、取りこぼした分をアヤメかカズラで仕留めるのが最も理に適っていた。
今回の後衛はマユミ一人。前衛が厚いぶん取りこぼしは減るだろうが、一度抜かれてしまえば対応しきれない。たしか雑魚が山盛りで出てくるステージがあったはずなので、どれだけ手数が多くても全部倒しきるのは難しいだろう。そもそもゲームと違って3次元的に広がる空間なので、『ニワトリ』のように前衛を飛び越えられるエクストラまで対応しきれるのかも分からない。
「今回は二人ずつペアで動いた方がいいと思います」
「私とサクラが後ろに残る、ということ?」
「いえ、私じゃたぶん役に立たないです。カンナ先輩かナズナ先輩にお願いしたいなと」
マユミが何か言いたそうにサクラを見るが、こうして話しているうちにもエクストラの気配は近付いてきて、今は私でも感じられる。今度は数が多そうだ。
「ま、それでいいんじゃない?私とサクラでまた見に行ってくるね〜」
わきわきと両手の指を動かしながらカンナが言う。大人しく後方で待っているという選択はできないようで、自然とナズナが残ることになった。
「あんまり離れすぎないようにね。お互いフォローできる位置にいた方がいいだろうから」
マユミが諦めたように言って、弓に矢をつがえた。ナズナも剣を軽く一振りする。それを合図に、カンナが飛び出した。
「ちょ、カンナ先輩!?」
慌てて後を追う。雨でぬかるむ地面をものともせず、カンナが気配のする方向に突っ込んでいく。この人、今の話聞いてた?
「待ってください!あんまり離れすぎないようにって、今」
「ん〜大丈夫大丈夫。あんまり離れてないよ〜」
「私がついていけないです。お願いだから止まってください」
マユミ達とは、既にサッカーの長い方の端と端くらい離れている。変身後の身体能力なら大した距離ではないかもしれないが、間をエクストラに塞がれたらお互いに孤立する。
渋々、というのを全身で表現してカンナが止まった。エクストラの気配はまだ森との境界あたり。カンナの一歩前に出て、雨で重さを増した薄の穂を睨む。
「カンナ先輩は私より前に出ないでください。ここで迎え撃ちましょう」
「ん〜?サクラが最前線ってこと?」
カンナの言葉に、少し楽しげな色が混じる。このまま食いついてここに留まってくれれば、その方がやりやすい。
「さっきみたいに私に飛びかかってきたところで、カンナ先輩が倒してください。私じゃ弾き返すのが精一杯だし、姿が見えてからの方が先輩も戦いやすいでしょうから」
SR杖のおかげで雑魚を弾き飛ばすくらいならなんとかなるのは、さっきの戦いで実証できた。多少攻撃をもらったとしても、自動回復もあるしすぐリタイヤは無いだろう。それにカンナの攻撃力は本物だ。全部を倒すことはできないかもしれないが、サクラの周りを片付けるくらいは簡単にやってのけるはず。
「そっかそっか。やる気を出した後輩に応えるのもいいかもね〜」
「もしヤバそうだったら、私を抱えて下がってくださいね」
「おっけ〜。置いてかないように気をつける」
カンナが両手をぱしん、と打ち合わせてニッと笑う。サクラを最前線に置くのは、ゲームでもあんまりやったことはない。杖を握る手に力を込める。濡れた宝玉が放つ柔らかな光が、場違いな穏やかさで雨に反射していた。




