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真昼の流星群 8

 翌朝、ノックの音にドアを開けるとアヤメがいた。


「…あれ?」

「おはよう。今日も寒いね」


 長い黒髪を後ろでまとめ、ネイビーのトレーナーを着て運動する気満々の格好だ。昨日は放課後一緒に勉強して、その時に朝練について詳しく聞かれた。朝起きる時間とかも確認された気がする。

 いやでも一緒に運動しようとかは言ってなかった…なかった、よね?自信無くなってきた。まあいいか。


「おはよ。ちょっと待ってね、髪まとめちゃう」


 一度部屋の中に戻ると、アヤメも一緒に入ってきた。あれだな、ナズナといいプライバシーという言葉を一度教えたほうがいいかもしれないな。

 寝る前にトレーナーを着込むのはもはや習慣化しているので、今日も後は髪をまとめるだけで準備完了だ。髪ゴムを取ろうとすると、アヤメも当たり前のようにそれを取り上げて髪を梳き始めた。何だろう。この世界には私が知らないだけで他人の髪はまとめるものって常識があるんだろうか。頭を撫でるように触れる手つきが優しくて、思わず笑みがこぼれる。


「ふふ、何だろね。ナズナ先輩も私の髪の毛まとめてくれるんだけど、そんなにボサボサしてる?」

「…へえ。そうなんだ」


 ひんやりした空気が流れてきて、体がぶるっと震える。今日はいつにも増して寒いかも。


「はい。できた」

「わ、ありがとう」


 鏡で見ると、ただ後ろでくくるだけではなく側面で簡単な編み込みがしてある。すごくかわいい。いつものツインテールもいいけど、こういう髪型変更もアリだな。


「おや、今日は先客がいるんだね」


 いつの間にかナズナがドアの所に立っていた。私達を見て、なんだか楽しそうに笑っている。


「おはようございます、ナズナ先輩。今日は私も一緒に走らせてください」


 アヤメがキラキラの笑顔で言う。ドアが開けっ放しのせいかすごく寒い。霜が降りそうだ。


「へえ。まあいいけど?」

「サクラとも約束したので。よろしくお願いします」


 約束、したっけ?アヤメがそう言うんならしたんだろうな。覚えてないけど。


「サクラ、今日もかわいいね。その髪型も似合ってる」

「ええ。今日は私がセットしたので」


 ナズナが爽やか笑顔で褒めてくるのに、アヤメがやけに「私が」にアクセントを置いて応える。何故サクラの腰に手を回しているんだアヤメ?二人ともいい笑顔なのに圧がすごい。この二人、やっぱり相性悪いなあ。


「えーっと、じゃあ行きましょう、か?」


 笑顔のまま動こうとしない二人に声を掛けると、ナズナがまず動いた。すごく楽しそうに見える。アヤメもサクラの腰を抱いたまま歩き出した。ちょっと歩きにくくないかな?もしもし?アヤメさん?

 グラウンドで動き始めるとさすがに手は離れたが、アヤメはずっと私に合わせて走ってくれていた。部屋に戻る時も、着替えてから食堂に行く時も、ずっと一緒。いつも通り…と言えばそうなのだが、なんだろう。アヤメから毛を逆立てて警戒する猫みたいな空気を感じる。

 また眉間に皺が生まれそうだ。そういえばまだ今度のイベントがどれなのか、見当もついていない。たぶんクリスマスイベントだろうなと思っているけど、こんなストーリーのイベントだったっけ?自業自得だがサクラの動きが違いすぎて、会話の流れから予想することができない。

 空を暗い灰色の雲が覆っている。ふうっと吐いた息が白く広がり、木枯らしに流され消えていった。

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