真昼の流星群 7
翌日もナズナと一緒に朝練をして、一人で朝ごはんを食べて教室に向かう。先に教室に居たアヤメに「本当に危ないので試験対策してください」と頭を下げると、ちょっと笑って頷いてくれた。よかった。少しだけだけど、いつものアヤメの顔が見れた。
お昼は二人で食堂に向かう。ほんの二日ほどでしかないのに、一緒に食事をするのがずいぶん久し振りな感じだ。手を取ると、少し時間を置いて握り返してくる。なんだか躊躇いはあるようだけど、避けられていないだけマシだ。思わず顔がほころぶ。
混み始めた食堂で、二人揃って鰤の照り焼きを取る。小皿には小松菜と人参の胡麻和え、お味噌汁は南瓜と玉葱。サクラになってから毎食いいもの食べてるなあとしみじみ思う。
アヤメと並んで座り、ほうじ茶を一口。じんわり体が温まるのを感じながら、隣を見る。すっと背筋を正して箸を使うアヤメは綺麗だ。見ていて飽きない。
「…何?」
視線に気付いたのか、アヤメが怪訝そうに首を傾げる。こうして些細なやりとりができるのが嬉しい。
「んーん。綺麗だなぁって」
にへらっと笑いながら答えて、私も胡麻和えに手を付ける。隣のアヤメの箸の運びが早くなっているのは、照れているのかな。
…最近アヤメがおかしい理由は、一言で表すなら嫉妬だというのは分かっている。ゲームでもサクラが皆に認められ、他の人との交流が増えていくとこういう感じの反応が描写されていた。
私が色々引っ掻き回しているせいで時期は早まっているけど、状況は同じだ。まあ原因が
分かったところで、いい感じに解決できるような対人スキルは私には無いんだけども。ゲームのストーリーで読むだけならギクシャクするのも楽しめるが、実際その渦中に置かれるとなかなか居心地が悪い。
「…サクラは」
「んむ?」
「その、どうなの。ナズナ先輩とは」
考え事をしながら照り焼きを頬張っていたら、アヤメから話を振ってきた。気になるのはやっぱりそこだよね。むぐむぐ口を動かしながら、どう答えるべきか考えを巡らせる。
アヤメは今まで自分にべったりだったサクラが離れていくようで、こうして混乱している。要は「アヤメ大好き!最高!」と言えばいいのだろうが、直接そう言ったら唐突すぎて逆に引かれるだろう。それになんだかんだナズナもサクラに優しくしてくれているし、ナズナを落とすのも違うと思う。何か企んでいそうな感じがあるのはアレだけど。
「んー、思ってたより合わせてくれてる、かな。もっとガンガン走り込みとかさせられるのかと思ってた」
「ふーん、そう」
澄ました顔でお味噌汁を飲んでいるが、めちゃくちゃ気にしてるな。こんなに分かりやすい子だったかなアヤメ。私もお味噌汁を一口啜る。あ、南瓜と玉葱の甘さでお菓子みたいになってる。鰹節の出汁かな、美味しい。
「いつもありがとね、アヤメ」
「何、急に」
「いっつも私に合わせてくれてるなって。この間の訓練でよーく分かった。『戦闘向きじゃない』って、本当にそうだよね」
「それは…」
アヤメがぐっと言葉に詰まる。最初に会った日、サクラになった日に言われた言葉。実戦を経験して、カンナやナズナと走り回って身に染みた。杖がSRになって強化されたくらいじゃ、まだまだ足りない。
「だからね、もっとがんばるよ。アヤメを守れるくらいになる」
まっすぐ目を合わせて宣言すると、アヤメの目がぎゅっと眇められた。左手がサクラの顔に伸びる。そのままぎゅっと唇を親指で拭われた。
「胡麻、付いてる」
「え」
かっこよく決めたつもりだったのになんてこった。アヤメの肩が細かく震えている。堪えきれずにぶはっと吹き出した顔を見て、私も笑ってしまった。
肩を寄せると、アヤメも体重を掛けてくる。こうして体温を感じるのも久し振りな気がするけど、たった二日くらいの話だ。ずいぶんアヤメに依存してるな、私。
「守ってもらってるよ」
アヤメが呟く。すごく穏やかな言い方に視線を上げると、アヤメは目を閉じて頬をサクラの頭に乗せてきた。
「最初の時も、この前も。サクラが居なきゃ私は死んでた。ずっと守られてるのは、私の方」
最初にエクストラと対峙した時、サクラは敵を倒すのではなく、アヤメを守ることを選んだ。それが、アヤメの中で大事な想いの核になっていたのか。
「だから、今度は私が守りたいんだ。サクラはね、私の──その、えっと、目標だから」
「あー、今ごまかしたでしょ。本当はどう思ってるの」
「本当だよ。本当に目標だと思ってる」
「えー」
優しい、優しい声。アヤメの言葉が、直接頭に響いてくるみたいだ。心の動きまでそのまま伝わってきそうな距離が、もやもやを押し流していく。人がいっぱいの食堂で、何してんだろ私達。きっと今、すごくだらしない顔してるだろうな。いいや別に。どうせかっこつけたって胡麻ついてるんだし。
ありがとうアヤメ。私は──目標って言ってくれたサクラとは違う人かもしれないけど。でも精一杯、その気持ちには応えるよ。




