真昼の流星群 6
教室でアヤメに話しかけると、一応いつも通りの会話はできた。でも、昨日以上に距離を感じる。やはりおかしい。時々何か言いたげな表情を見せるのだが、結局力のない笑みを浮かべて終わる。聞いても教えてくれない。お昼ごはんは一緒に、と思ったのだが、休み時間になったらすうーっと教室から消えてしまって、結局捕まえられなかった。
「ん〜…」
放課後。アヤメを午後のおやつタイムに誘ったが、「用事があるから」と断られてしまった。今までの経験から断言できるが、用事は無い。明確に避けられたのはこれが初かもしれない。額の皺が深さを増し、そのまま固定されそうだ。
食堂で一人、難しい顔で栗の茶巾絞りをつつく。これからどうしようか。ずっとアヤメと一緒にいたから、いざ離れると何をしていいのか思い付かない。期末試験もあるし勉強しなくてはいけないのだろうけど、そんな気になれない。いやこれじゃアヤメを言い訳にしてるだけだ。いかんいかん。
「サクラではないか。一人か」
呼ばれて顔を上げると、サカキがお盆にモンブランを載せて立っていた。そのまま私の正面に座る。よく見るとモンブランのお皿とティーカップが高級っぽい磁器だ。まさかのマイカップ&ソーサー?横に置かれた本は…英文か。優雅なティータイムだな。
「悩みの種は芽吹き蔓延れば心の幹を枯らす。言霊の響きに乗せ、吹く風の中に散らすが良い」
えーと…つまり悩みがあるなら相談に乗るよ、ってことでいい、かな?姿勢を正し、紅茶に口を付けるサカキを見る。編み込まれた銀髪が、弱まり始めた午後の日差しを受けて柔らかく光っている。
「サカキ先輩には、私とアヤメってどう見えてますか?」
「ふむ。太極より生ずる陰陽だな」
…んん?思わず首を傾げてしまう。ごめんなさい、もう少し分かりやすい言い方だとどうなります?
「えーと?」
「同元であり相生し相剋する。和すれば乗じ、反すれば侮る。まあ、その限りではなかろうが」
「???」
何かこう、難しい話をされているんだなーというのは分かった。うん。
「あー、ありがとうございます?」
「礼には及ばぬ。其方に星の祝福があらんことを」
サカキがフォークで丁寧にモンブランを切り分け、口に運ぶ。私も改めて茶巾絞りを一口食べた。さっきより美味しく感じるのは、誰かと一緒だからか。なんだかサカキの答えが斬新すぎて、悩みも一部吹っ飛んだ。
明日はアヤメに「勉強教えて」と頼んでみよう。それなら断られないと思う。少し温くなったお茶をぐいっと飲み込むと、つかえていたものも一緒に飲み下せた気がした。




