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真昼の流星群 5

 あと1分。

 じりじりと体を丸める。体温で温まった布団の空気が幸せすぎる。起きる。起きるが、それは今ではない。まだ間に合う。大丈夫。


 コココンと軽妙なノックの音がして、私の怠惰な時間は打ち砕かれた。布団を跳ね除けると、冷気が全身を襲う。悲鳴を上げそうになるのを堪え、ドアを開ける。


「おはよう。準備は…大丈夫そうだね」


 ナズナがキラキラ笑顔で言う。学校指定のネイビーのクソダサトレーナーも、ナズナが着るとアウトドアブランドのスポーティな着こなしに見える。スポーツドリンクのCM界の住人ですか貴方。

 私もすでに学校指定トレーナーを着込んでいる。朝起きて着替えるのが辛いなら、寝る前から着てしまえばいいじゃない。まさにコロンブスの卵的発想。悪魔的思考が冴え渡る。ふふん。


「あとは髪をまとめるだけなんで、ちょっと待っててくださいね」


 そう言ってドアから離れると、ナズナも一緒に入ってきた。サクラが手に取った髪ゴムをするっと取り上げる。


「僕がやるよ。そのまま前を向いて」


 当たり前のようにサクラの髪を梳き、高い位置のポニーテールにまとめる。うーん、さらっとこういうことをするあたり女子の扱いに慣れているというか。いや女子だけどナズナ。


「うん、いいね。こういうのもかわいい」


 ぱっと花開くような笑顔で言ってのけるのは計算なのか天然なのか。なんとなく身構えてしまうのは、ゲームでのナズナを知っているからだろうか。


「ありがとうございます。じゃあ、行きましょうか」

「うん。軽くストレッチしたらグラウンドに行こうか。無理せず、自分のペースでね」

「はい」


 空気は冷たいが、外はよく晴れている。グラウンドで日を浴びれば、体も温まるだろう。改めて気合を入れ直し、私は部屋を後にした。




 結論から言えば、朝の運動はなかなかに快適だった。運動部が朝練しているのを横目に30分ほどジョギングしていただけだが、体が温まってくると思っていたほど苦しくもない。ナズナは時々サクラに話しかけてきたが、基本自分のペースで走っていてずっと一緒というほどでもない。その加減がなかなかに絶妙で、走り慣れていないサクラが飽きてきた頃を見計らっていたのが分かる。意外と、と言うと失礼だが、周りをよく見ているんだなと感心する。

 いつも起きるくらいの時間になって、いったん寮に戻って着替えることにした。自分の着替えもあるだろうに、ナズナは「部屋まで送るよ」と言ってサクラの部屋までついてくる。いや送ってもらわなくても同じ寮内なんですけど。


「──サクラ?」


 部屋の前にはアヤメがいた。きっちり制服に着替えていて、いつも通り起こしにきてくれたようだ。そういえば昨日も訓練後に会いに行っても居なくて、今日から朝練って伝えられていなかったんだった。


「あ、ごめんねアヤメ。私…」

「サクラはね、今日から僕と特訓するんだってさ。毎朝」


 後ろからナズナがのしかかるように腕を回してくる。いちいち距離が近いな。


「ふうん、そう。そう、なんだ。ふぅん…」


 アヤメがこれ以上ないくらい平板な口調になる。表情が消えるってこういうことか。怒っている、というわけではないようだが、なんか怖い。


「すぐ着替えるね。一緒に朝ごはん行こ?」


 ナズナの腕をべりっと剥がし、アヤメに笑顔で駆け寄る。手を取ろうとすると、アヤメはふらふらとドアから離れていった。


「大丈夫。うん。大丈夫だから」


 遠い目でそう言うと、アヤメは行ってしまった。そっち、食堂とは逆方向だと思うんだけど。


「じゃあ、僕も着替えてくるよ。またね、サクラ」


 ナズナがめちゃくちゃいい笑顔で言う。胡散臭いことこの上ない。


「アヤメに何かしました?ナズナ先輩」

「んー、僕は何もしてないかな。僕は、ね」


 わざとらしくウインクをしてみせて、ナズナも自分の部屋に戻っていった。釈然としない気持ちで自分の部屋に入り、制服に着替える。

 食堂に着いた時には、もうアヤメの姿はなかった。一人で食べる朝ごはんは、いつも通り美味しかったがなんだか物足りなかった。

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