真昼の流星群 4
30分ほど経過した頃に、予感は確信に変わった。べったり大の字に寝転がり、荒い息を吐く。
「あのね、訓練なんだからもうちょっと考えて動いて?」
「え〜、でも訓練でできないことは本番でもできないって言うじゃん?」
「だからって本番で絶対にしないような動きをしなくてもいいでしょ?」
マユミがカンナを叱っているのが聞こえてくる。私にはもうそっちを向く気力も残っていない。
訓練が始まるや否やカンナが一気に前に飛び出し、涼しい顔でナズナも続いた。慌ててサクラも後を追う。縦横無尽に飛び回るカンナを追いかけ右往左往しているうちに、変身で強化されているはずの体が悲鳴を上げた。気分はエンドレスシャトルランだ。
アヤメ、めちゃくちゃサクラに気を遣ってくれてたんだな。カズラも全体をよく見て動いてくれてた。二人の優しさが今更になって身に染みる。
敵を見れば突っ込んでいく火の玉ファイター。我が道を行くSっ気王子様。前衛としての実力は確かだが、守られ気質の魔女っ子サクラとしてはもう少し手加減が欲しい。ぽつんと取り残されてエクストラに囲まれ、押し潰される未来が見える。
「サクラ、大丈夫?」
心配そうに眉を下げたマユミが私の傍にしゃがみ込む。今日は困り顔しか見てない気がする。
「…だ、ケホッ」
大丈夫です、と答えようとしても喉が詰まり、言葉が出ない。こんなに走り込んだのはいつ以来だろうか。サクラの経験にはないだろうし、私の学生時代を含めてこんなに真剣に走った記憶はない。…あー職場の運動会とかいう謎イベントがあったな。嫌なこと思い出した。
「うーん、とりあえず感覚は掴めただろうし、今日はこれで終わりにする?必要ならまた集まればいいんだし」
マユミがすっかり朱に染まった空を見上げて言う。ずいぶん日が落ちるのも早くなった。ゆらゆら揺れる枯れ薄が不気味な影を帯びる。幽霊に見間違えたというのも納得だ。
「え〜、まだ動き足りないんだけど」
「じゃあ一人で好きなだけどうぞ。私は帰ります」
「マユミ冷たい〜、遊ぼ〜よ〜」
「遊びじゃないです」
ようやく起こせるようになった体を動かし、ぺたんと座り込んで二人のやりとりを見ていると、横にナズナが座った。汗一つかいていない。爽やかな笑顔が一周回って憎たらしい。
「どうかな?うまくやっていけそう?」
「…とりあえず、明日から走り込んでみようかと思います」
戦装束で強化されるとはいえ、無い体力が湧いてくるわけではない。サクラ自身の底上げが必要だ。今回で逆説的にアヤメの負担にも気付いた。アヤメがもっと自由に動けるように、私もできる努力はしないといけない。
「ふぅん?じゃあ、一緒に走る?」
「え?」
「僕も朝に軽く運動してるんだ。ちょっと早起きしてもらうことにはなるけど、一緒にやってみる?」
おお、ナズナも裏ではそんな努力を。朝からめっちゃ爽やかな汗を流している姿が容易に思い浮かぶ。なんなら運動部の子とかからドリンクやタオルの差し入れ貰ってそうだ。
放課後は訓練や部会になることもあるし、走るとしたら朝くらいしか選択肢はない。一人できっちり起きて準備できるかと言われると不安だし、早起きにアヤメを付き合わせるのも悪い。頼んだら絶対やってくれるし一緒に走ると言ってくれるだろうけど、そこまで頼り切りになるわけにはいかない。元々そういう習慣がある人がいるなら、そこに甘えさせてもらおう。
「ナズナ先輩がいいなら是非」
「うん。じゃあ明日の朝起こしに行くね」
「なるべく自分で起きるようにします」
誰かが迎えにくるとなれば、寒い朝の布団の誘惑にも勝てるだろう。きっと。
ナズナの黄緑の瞳が楽しげに煌めく。新しいイタズラを思い付いた子供のようなその色に、疲れ切った私が気付くことは無かった。




