真昼の流星群 1
「──ということで、そろそろ次の襲撃があるんじゃないかとマユミが言ってま〜す」
放課後。部室には私とアヤメ、カンナとマユミ、それからナズナが集まった。今日は定例部会という名のお茶会だ。温かいお茶に甘すぎないおまんじゅうがありがたい。
「なんとなく、だけどね。1週間くらいの間に、何かあると思う」
マユミが湯呑みで手を温めつつ話す。今までのパターンから言っても、そろそろ何かある時期ではある。ゲームのメタ的にクリスマスイベントの次が新年イベントなら、これくらいで突っ込んでくるくらいがちょうどいい。新章も始まるだろうし、年末にかけて忙しくなりそうだ。
「ま〜サクラも戦力になってきたし?心配はしてないけどね〜」
カンナがおまんじゅうをぱくつきながら笑った。ハロウィンイベントで見せたサクラの活躍で、アクセプタント内でのサクラの位置付けは守らなきゃいけない妹から一応の戦力まで向上している。あけすけに口にするのはカンナくらいだが、それが全く嫌味にならないのはカンナの魅力だろう。
なにせ今までは小競り合い程度の戦いでも、『ネズミ』1匹でも逃そうものならやられていたサクラなのだ。ボスの攻撃にも耐えたのだからもう別人レベルの成長である。おおむねSR杖のおかげとはいえ、胸を張って誇っていいことだと思う。
「それで今回は、前回がんばった皆にはお休みしてもらって私達が対応しようかと思うの」
マユミがふんわり微笑みながら続ける。前回出撃組を除くなら、今回はここにいるカンナ、マユミ、ナズナの3人が出る、ということか。あと1人はどうするんだろう。やっぱり司令官カズラかな。
「それでね、サクラ。連戦になって悪いんだけど、また出てもらってもいいかな?」
私だった。お茶を飲む手が止まる。まあサクラの力が認められているなら素直に喜ばしい。
「はい、私で良けれ──」
「待ってください」
アヤメの鋭い声で、私の言葉は遮られた。紫の瞳を眇めて、アヤメがマユミを見る。
「戦力が欲しいなら、私が出ます。ダメージは残っていないので大丈夫です」
「うーん、気持ちは嬉しいんだけど。今回はサクラとどう戦えるのかを試したいのもあるの」
「それなら私とサクラが出ます。今、一番サクラと連携できるのは私です。カンナ先輩かナズナ先輩のどちらかと代わります」
隣に座るアヤメの体に、力が入っていくのが分かる。私が最初に会った日のアヤメと同じ、思い詰めて少し意固地になった表情をしている。
「もう少しサクラのことを信じてもいいんじゃない?僕達とでもサクラはうまくやれると思うよ」
ナズナが頬杖を突きながら言う。顔は笑っているけど、アヤメを見る黄緑の瞳はどこか挑戦的な光を帯びている。
「現状の話をしているだけです。私は──」
「そこまでサクラを信じられない?過保護すぎるんじゃないかな」
ナズナの言葉に、アヤメの纏う空気が冷える。ぴりっとした空気を断ち切るように、明るい声が響いた。
「ま〜どっちでもいいんじゃない?私は代わってもいいけど〜。サクラ、どうする〜?」
カンナの問いに、私はちょっと考える。この時期はゲームのリリースから提供されていたストーリーに沿うなら、サクラは後衛組としてマユミやサカキと交流を深めていたはずだ。私のイレギュラーな動きでかなり変わってしまっているが、アヤメにべったりくっついていたサクラが先輩たちとの関係を作っていくことが、新章の大事な布石でもあった。
「私は…」
横のアヤメを見ると目が合った。不安と、苛立ちを含んだ表情。その向かう先は自分自身なのだろう。真面目で、不器用なアヤメ。
私が前衛に寄ってアヤメに守ってもらうと言ったことで、必要以上に負担をかけていないだろうか。サクラを一番に心配してくれる気持ちは嬉しいけれど、それがアヤメを苦しめるのだとしたら。
「マユミ先輩の案のままでいいと思います。よろしくお願いします」
「サクラ…」
アヤメの顔がきゅっと歪む。違うよアヤメ。アヤメを否定してるわけじゃない。アヤメと一緒が一番安心できる。でも、それに甘えてちゃいけないと思うんだ。
「私は大丈夫だよ。ありがと、アヤメ」
にっこり笑うと、アヤメはすっと目線を逸らせて俯いてしまった。ぎゅっと眉間に皺が寄っている。
「それじゃあ、今回は私とカンナ、ナズナ先輩、それからサクラ。よろしくね」
マユミがぱんっと手を叩き、努めて明るい声を出す。微妙な空気になった部室で、改めてお茶を口にする。
冷めたお茶は、渋みが増した感じがしておいしくなかった。




