十五夜ハロウィンパーティ エピローグ
中間試験も終わり、日常が戻る。
そう、結果はともかく終わったのだ。いろんな意味で。ならば今日を楽しむべきだ。きっとそうだ。せっかく早起きした休日を、全力で楽しもう。
今、サクラの部屋の机の上にはもこもこフェイクファーが積まれている。ゲームでのサクラの趣味は手芸。女子力高い。アカメデイアは女子校らしく家庭科系の器材を貸し出してもらえるので、これから手芸室に行く予定だ。
今日挑戦するのは、サクラのイベントSR衣装の再現だ。ハロウィン限定ということで、皆が怪物モチーフのアレンジが入ったイラストでかわいかった。特にサクラは直球王道ながら「これだよこれ」という出来で、カード一覧で眺めてはニヤケ面を浮かべていた。周りに誰かいたらかなり気持ち悪い絵面だったと思う。
ここでは武器は変化しても戦装束は変わらないようなので、ならば自作してみようと思いついたのだ。まあ夏限定水着衣装で出撃とか絶対したくないので、服装が変わらないのは当然だとは思う。ゲーム内でも戦闘画面のSDキャラ絵が変わる訳ではなかったし。
材料を鞄に詰め、大まかな型紙を手に出発だ。午前中の空気は涼しい、から寒い、に移り変わりつつある。日差しがあると暑いけど、少しずつ冬に向かっているのを実感する。
手芸室でミシンと格闘すること3時間。
「で、できた…」
我ながらなかなか良い出来ではなかろうか。姿見の前で、戦装束に変身し合わせてみる。自分で言うのもなんだがめちゃくちゃ可愛い。さすがサクラ。ちょっと微調整をすれば、夏冬の某イベントで囲みができるレベルだと思う。こっちにはそういうイベントはないし、そもそも戦装束が本物なのはチートだが。
ハロウィン当日に皆にお披露目しようと思っていたのだが、こうなると誰かの反応が見てみたい。変身を解き、片付けを始める。まだお昼前だから、きっとまだ部屋にいるはず。
寮の部屋をノックすると、ややあってドアが開く。
「どうしたの?」
アヤメが首を傾げると、さらりと黒髪が流れた。シンプルなシャツにカーディガン、ロングスカートの普段着が似合ってるなあ。深窓の御令嬢といった佇まいだ。
「ふふーん、ちょっと見せたいものがあるんだ」
私が自信満々に告げると、アヤメはクスッと笑って部屋に入れてくれた。寮の部屋は家具を含めて基本同じだが、使う人の雰囲気を吸収するのか『アヤメの部屋』って感じだ。凛として、芯の通った空気。それでいて優しく、居心地がいい感じ。
「ちょっと準備するから、むこう向いてて」
「はいはい」
アヤメが壁を向くのを確認して、鞄から出来立てのグッズを取り出す。杖を出し変身すると、さっと合わせて微調整していく。
「いいよ、お待たせ」
「一体何を──」
言いかけたアヤメが動きを止める。ぽかんと開いた口がちょっと可愛い。
「がおー!!お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ!」
両手を鉤爪の形にして、例の台詞だ。決まった。
ハロウィンSRサクラはオオカミ男モチーフ。要はケモミミ少女だ。魔法使いのとんがり帽子に大きな耳を付けるだけの簡単なお仕事で、ここまで可愛くできるとはと感心したものだ。さあ可愛さに震えるがいい。
アヤメは…ノーリアクション、というか固まっている。あれ?
「が、がおー?」
「…………」
アヤメが頭を抱えて、ふらふらと椅子に座る。あ、あれ?超絶不評?
「…サクラ」
「…はい」
ふーっと長く息を吐いて、アヤメが話し始める。お説教のような空気に、思わず背筋を正す。
「それは、何?」
「えーと、その、そろそろハロウィンだから、どうかなーって…」
「そう。それを見せたのは私だけ?」
「はい。今日作ったばかりです」
「そう。そう、なんだね」
アヤメがちらりとサクラを見る。目がちょっと据わっている気がする。
「それ、他の人に見せちゃダメ」
「え、でも」
「ダメ」
「…ハイ」
見せられないほどダメだっただろうか。ちょっとシュンとして変身を解き、ケモミミを鞄にしまう。顔を上げると、いつの間にか立ち上がったアヤメが傍まで来ていた。サクラのツインテールに結んだ髪に触れ、ぽつりと呟く。
「…イタズラで」
「え?」
「何でもない。お昼まだでしょ。一緒に行こう」
するっと手を繋がれた。少し早いが、食堂が混み始める前に行ったほうがいいだろう。手を握り返し、二人で部屋を後にする。
ケモミミは結局「危険だから」というよく分からない理由でアヤメ預かりとなった。危険視されるほど出来が悪かっただろうか。ハロウィン本番では、皆で部室に集まりお菓子の交換会ができたので良かったけど。
今回で十五夜ハロウィンパーティ編完結となります。
お付き合いいただきありがとうございました。




