十五夜ハロウィンパーティ 8
昼休みも半分を過ぎて、食堂は空き始めていた。全寮制のアカメデイアの食堂は3食バラエティ豊かで、弁当形式で持ち帰ることもできる。私はお盆に鰯の煮付けと筑前煮、ほうれん草と豆腐のお味噌汁をとる。アヤメは鶏肉の竜田揚げに刻みキャベツ、お味噌汁は一緒。
食堂を見渡すと、サカキが先に窓際のテーブルに座っていた。葉物野菜のサラダにベーコンとタコさんウィンナーを乗せ、クロワッサンを齧っている。カップに入っているのは紅茶かな。湯呑みにほうじ茶を入れて、サカキの前にアヤメと並んで座る。
カズラがお盆に山盛りご飯とどっさり竜田揚げ、丼に盛られた筑前煮と味噌汁を所狭しと乗せてやってきた。そういえば大食い設定だったなカズラ。知的青髪眼鏡でどんぶり飯のギャップがまた可愛かった。
「さて、じゃあ食べながら聞いて。マユミは今回の襲撃、ピークは夜になるだろうって言ってる」
カズラが竜田揚げとご飯を口に放り込みながら、それでいて上品に喋るという器用な芸当をしている。私達も食事をしながらそれを聞く。
「日中は小規模な襲撃が続くだろうね。その都度迎撃でもいいと思うけど…」
「こっちから打って出る、という選択肢もありますね」
アヤメが続ける。イベントストーリーとは異なり、今回はエクストラの出現場所とルートがはっきりしている。防戦一方ではなく、強襲することもできるわけだ。鰯の煮付けを齧りながら、2人のやりとりを聞く。生姜が臭みを消して、骨まで柔らかく煮込まれていて美味しい。
「それも考えたんだけど、リスクもあるんだよね。今までアカメデイア周辺で戦っていたから出撃組と待機組で連携もできたけど、さすがにあの大岩の所まで離れると難しい。4人が離れた後にエクストラの大集団がこっちに出たら、3人で対応しきれるかどうか分からない」
「エクストラの動きが陽動の可能性もある、と?」
「奴らの動きにどんな意思があるのか、あるいは無いのかすら分からないからね。安全策をとるならいつも通りの迎撃でいいと思う」
私の数倍はあったカズラの筑前煮が順調に消えていく。話を全く止めずに食べる技術はもはや魔法だ。
「うむ。大地の脈は叡智の泉に流れる。その恩寵に浴し技を振るうが最善であろう」
サカキがナイフとフォークで優雅にウインナーを食べながら言う。…タコさんウィンナーにナイフとフォーク?
「では、個体はその都度撃破、集団の場合は第二グラウンドに誘導し対応する。いつも通り、落ち着いていこう」
カズラが食事を終えて立ち上がる。私はまだ半分も手を付けていない。追い付くのは諦めてゆっくりお味噌汁をすする。煮干しの香りがする、優しい味だ。
もうじき午後の授業が始まるが、私達はこのまま待機だ。エクストラ迎撃のため突然飛び出していくアクセプタントに一般生徒が動揺しないように、戦闘が予想される時には授業には出なくてよいと先生方から許可をもらっている。カズラは一度2年生の教室に戻って、カンナやマユミと話し合いをするのだろう。司令官は大変だ。
「我が友よ、礼を言う」
食事を終えたサカキが、突然真剣な表情で言った。筑前煮の人参を咀嚼するサクラの口が止まる。礼を言われるようなこと、したっけ?
「我が言霊は伝わり難い故、此度の事も皆を動かす力にはならぬのではないかと思っていた。響く心に従い立ち上がってくれた汝に、最上級の感謝を」
ええと、つまり前の部会の時にサカキの言葉を受けて私が動いたことに対してありがとう、ということかな?確かにイベントストーリーのままなら受け流されて、そこからドタバタ劇が始まるところだった。
「いえあの、そんなお礼を言われるようなことではないです。私は…」
「サクラ」
サカキが両手を伸ばしてきて、サクラの手を握る。お昼の日差しの中、銀髪が光に溶けるように輝き、グレーの瞳が妖しく揺らぐ。
「これからは感謝と親愛を込めて、真名で呼ぶことを許してはもらえぬだろうか」
「へ?ええ、もちろんですサカキ先輩」
名前呼びをするのに何を大袈裟な。笑顔で答えると、サカキは嬉しそうに微笑んだ。なんだか年相応の表情ですごく可愛い。さすがメインキャラの一人、ビジュアルは完璧だ。
そういえばゲーム内でサカキが他のキャラを名前呼びするってほとんど無かったっけ。たいてい眷属とか汝とか、そんな感じで呼びかけていた気がする。何か特別な理由があるんだろうか。
また思考の海に沈む私の横で、アヤメが食事の手を止めて「3年生は要注意か…」と小さく呟いたが、私の耳には残らず食堂の喧騒に消えていった。




