十五夜ハロウィンパーティ 6
とりあえずあの日大岩に何かをしたことで杖が変化した可能性を伝えると、皆は納得したようだ。サクラの変身も特に問題なくできたので、予定していた連携訓練だ。戦闘時には前衛と後衛を決めて押し寄せるエクストラに対峙するが、エクストラの突破状況によってはポジションは動くし、それに合わせてそれぞれがカバーし合う必要がある。各自の移動速度も違うので、それも考慮しながら動くのはなかなか難しい。
サクラはアヤメの斜め後ろを保ちつつ、カズラの立ち位置に合わせて左右を交替する感じだ。戦装束で身体能力が強化されているとはいえ、アクセプタントの中で最弱を誇るサクラはとにかく遅い。アヤメが気を遣いながら動いてくれているのがはっきり分かる。ちょっとは走り込みとかしたほうがいいんだろうか。
15分ほど動いてからいったん休憩をとる。水筒を出してお茶を飲んでいると、アヤメが肩を寄せて耳打ちしてきた。
「…サクラ、何かしてる?」
「うーん、この杖の力っぽい」
今回のイベントドロップ杖が欲しかった理由は、その付与効果だ。効果その1、自動回復。小範囲のアクセプタントに対して1秒に0.1%のHP回復効果あり。杖を強化することで回復率は最大1%まで上昇する。アヤメは回復を疲れにくさとして認識しているようだが、戦闘になればもっとはっきり実感できるはずだ。
効果その2は実際にエクストラと対峙してみないと分からないが、このぶんだと大丈夫そうだ。ちょっとは足手まといを返上できそうである。
「じゃあ、もう一度やってみよう。今度は私が実戦を想定して動くから、アヤメとサクラはポジション見失わないで。サカキ先輩は全体のサポートお願いします」
「はい」
「応」
カズラの言葉でまた訓練を再開する。大きく跳躍するカズラに合わせ、私も全力で走った。間を埋めるようにアヤメが走る。サカキの放つ短槍がカズラの着地点を示すように突き刺さっていく。
30分ほど走り回り、この日の訓練は終了になった。西の空が茜色に染まり始めている。変身を解くと、途端に冷たい風を感じて体が震えた。
「マユミの予想だとエクストラの出現は明日。今日はしっかり休んで備えること。何かあったらすぐに連絡して」
カズラの言葉で解散する。アヤメと2人、夕焼け空の下を寮に向かって歩く。サクラになって最初にアヤメと会ったのも夕暮れ時だったな。もう1ヶ月近く経つと思うとずいぶんあっという間に感じる。
「寒くなったね」
「うん」
アヤメの手を取ると、握り返してくれた。繋いだ手の温もりが素直に嬉しい。体温のある、生きた存在として『百花乱舞』の世界で生活するのが、私の中で当たり前になっている。
隣を歩くアヤメを見上げる。あの日、サクラの部屋で話した時と同じように夕日に照らされているが、追い詰められ傷付いたような表情はない。
「ねえ」
「ん?」
アヤメがサクラを見る。穏やかな紫の瞳。アヤメはいつでもサクラに優しい。今もサクラの歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれている。
「今回は、私もアヤメを守るよ」
アヤメが一瞬驚いたように目を見開き、ふっと微笑む。思いがけないほど綺麗な表情に、鼓動が早くなる。
「生意気」
「えー、そうかな」
優しい声。よかった、今度は拒絶されなかった。少し肩を寄せると、アヤメも押すように体を寄せてきた。長く伸びる影が一つに重なる。
夕ご飯はサンドイッチを食べたいな。あの日と同じ、トマトとチーズ、それとタマゴ。今度はアヤメと一緒に。どうでもいいことをたくさん話して、でもカズラに怒られないように早めに寝なきゃ。
運動部の子達だろうか、遠くで呼び合う声が聞こえる。何でもない一日が、何でもないまま終わろうとしている。それを守りたいと、私は強く思った。




