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十五夜ハロウィンパーティ 5

 満月は明日。イベントストーリーでは満月の日のお昼頃からエクストラが湧き出して、月が昇ると共に数を増やしていくという展開だった。向かう先は食堂。デザートを奪いにくるエクストラという、なんともユルい絵面のイベントだ。

 今回出撃する4人で放課後集まり、戦闘時の連携の最終確認をすることになった。授業が終わるとアヤメと2人で第二グラウンドに向かう。アカメデイアには校舎に隣接する第一グラウンドと、ほぼ使われていない第二グラウンドがある。第一グラウンドでもサッカーが余裕でできる広さなので、授業や部活であればこちらで十分だ。今も陸上部が元気に走り回っている。

 第二グラウンドは第一グラウンドの向こうにある、2面をフェンスに囲まれ、後は森に繋がっている広大な原っぱという感じの場所だ。グラウンドと言っているが、たぶんアカメデイアをもう一個入れられるくらいの広さがある。何かを作るつもりだったのか、それとも何かの跡地なのか。色々と噂はあるがはっきりしない場所だ。

 エクストラとの大規模な戦闘は、だいたいこの第二グラウンドで行われる。単体で現れるエクストラは個性豊かな行動を見せるが、集団になると群れとして動くようになる。そして花に集る虫のように、アクセプタントの私達を狙ってくる。その性質を利用し、見通しがきき暴れ回っても問題のない第二グラウンドにエクストラを誘導し、連携をとりつつ戦うのが私達の戦術だ。


 グラウンドにはもうサカキがいた。今日も銀髪を複雑に結い上げ、独特な角度のついたポーズで立っている。たぶん風が語るのを聞いているとかそういうのだろう。邪魔をするのも悪いので、アヤメと2人遠巻きに見守る。


「我が友よ。共に魂の響きに身を委ねようではないか」


 目を閉じたままサカキが話しかけてきた。この間は眷属だった気がするので、友にランクアップしたようだ。


「こんにちは、サカキ先輩。魂はどう響いてますか?」

「うむ。闇の呼び声は深く近く、その力を増している。だが烈日は必ず闇を裂き、新たな輪廻を生み出すのだ」


 敵は来るけど勝てるよ、ということかな?全体的に色白なサカキだが、寒かったのか鼻の頭が赤くなっている。けっこう前からずっとここで待ってたのかな。


「ごめん、遅くなった」


 カズラが小走りにやって来た。これで全員集合だ。


「じゃあ予定通り、変身して実際に動いてみようか。周りを見て、自分の位置を見失わないようにしていこう」


 カズラが鞭を振るうとぶわっと風が巻き起こり、ベストのようなボディスのような西洋風の上着にロングブーツの戦装束に変身する。腰から下はどこか東洋風のやや厚手の布地で、スカートというよりは袍と表現した方がいいのかもしれない。明るい青地に群青の紋様の入った鮮やかなデザインだ。

 アヤメが薙刀を両手で握り、地面に打ち付ける。細かな氷の粒が舞い散ると、黒に近いくらいの濃い紫の、鎧直垂というのだろうか。若武者風の凛とした戦装束に変わっていた。

 サカキも白い戦装束に変身している。あとはサクラだけだ。手を伸ばし、杖を思い浮かべる。


「──あれ?」


 杖は手の内にあった。

 だが、つるつるすべすべノーマル杖ではない。先端に柔らかな薄紅色の宝玉の付いた、サクラの身長ほどの杖だ。流水に花弁の彫刻が施されていて、磨き上げられた木目が美しい。

 …これってイベントレアドロップのSR杖?え?なんで?


「それって…」


 アヤメの声はっと我に返る。皆が私を、というか杖を見ている。


「サクラ、それ、どうしたの?この前は普通の杖だったと思うんだけど」


 カズラが疑念を含んだ目でサクラを見る。一昨日の探索の時にはノーマル杖だった。それは間違いない。


「えっと、分からない、です。この前から一度も出してなくて」

「今日突然変化したってこと?」


 アヤメが首を傾げる。


「どうなんだろ?なんで変わったのか、ぜんぜん分かんない」

「私の時は、戦いの後で何というか感触があって、思い浮かべたら変化したって感じだったけど」


 アヤメのSR薙刀はそういう進化か。レアドロップ扱いなのかな?


「私も同じ感じだな。サクラ、何かない?武器変化の法則が分かれば役に立つかも」


 カズラが言いながら近寄ってきて、杖を観察している。そうは言われても、何をしたかっていうと…。


「ふむ。これはあの岩の導きであろう。サクラの癒しを与えようとする心が奇跡を生んだのだ」


 サカキが槍を脇に抱え、手を中空に差し出すようにして語る。まあ確かに思い当たることと言えば、あの日大岩に何か吸われたことくらいだけど。でも吸われて無くなるならともかく、SRが出てくるってのもどうなんだろう。岩は結局割れたままだったし。

 ん?割れる?石?


「ああっ?」

「うわ!?」


 突然膝から崩れ落ちたサクラに周りが驚きの声を上げるが、私の頭はそれどころじゃなかった。アヤメが心配そうにサクラの体を支える。アヤメごめん、何かあったとかじゃないんだ。あまりにもくだらなすぎる思い付きに力が抜けただけなんだ。


 石を割る。ガチャを回す行為を指すネットスラング。『天井まで石割ってようやくSSR出たわー、マジ糞だわー』みたいな呟きをよく見るやつ。

 いやまあ石は元々割れてたけど。でもあのキラキラ光が舞うのってガチャの演出ぽかったな。そうすると小さい石と大きい石合わせてSR以上確定10連ガチャ的な…。いやいやいや。

 そもそもこの杖イベントドロップだし。あ、でもイベントドロップ限定ガチャとかもあったし…ってゲームから離れろ私。


 ひくついた笑いを浮かべるサクラを本気で心配しているアヤメは綺麗だなあ。戦装束よく似合ってる。

 現実逃避を始めた私を、秋の日差しが照らす。杖の宝玉が柔らかく光を反射している。

 十五夜ハロウィンパーティ、イベント戦闘開始まで、あと1日。

楽しいですよね、石割るの。

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