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プロローグ

 窓の外から小鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 風が運んでくるのは、生徒達の歓声だろうか。もう放課後のようだ。

 ぼんやりとした頭で、漆喰の天井を見つめる。

 夏も終わりだというのに太陽はまだまだ元気なようで、じきに夕暮れ時だろうに風をはらんで膨らむ白いカーテンが眩しいくらいに輝いている。

 私は確か…またやられてしまったんだっけ。

 アヤメが振り返って大声で叫んでいた…ような気がする。また自分を責めるんだろうか。アヤメが悪いわけじゃないのに。

 ベッドの上でころんと横向きになる。見慣れた机と椅子。椅子の背には制服の上着が掛けてある。気を失った私を、誰かが部屋まで運んでくれたんだろう。自然と溜め息が出た。

 なんでこんなに役立たずなんだろう、私。

 みんなは優しいから「そんなことない」って言ってくれるけど、私が戦いの場で役に立ったという自覚が全然ない。

 じんわり涙が出てくる。そもそもなんでこんなゲームバランスにしたんだと運営に問いたい。


 …。

 …ゲーム、バランス?

 今何か、すごく変なことを考えた気がする。

 ベッドから体を起こして立ち上がる。大して広くもない寮の部屋。あるのはベッドと机と椅子とクローゼット。それと、鏡。

 楕円形の姿見に映る姿。いつもツインテールにくくっているピンク色の髪は解かれ、さらさら肩に流れている。少し皺のよった制服のブラウスとスカートに包まれた小柄な体。桃色の瞳はどこかぼんやりとこちらを見返していた。


「サクラだ」


 私の名前。自分の声のはずなのに、どこか他人事のように響く。

 おかしい。何かおかしい。ぽすんとベッドにお尻から落ちる。

 私って誰。誰って私だ。私、だけど、サクラじゃ、ない。

 サクラのことは知ってる。ゲームで。いやでも私はサクラで。え?何これ。

 部屋がぐるぐる回っているようで気持ち悪い。もう一度鏡を見る。青白い顔。不安そうに揺れる瞳。自分のもののはずなのに、その実感がない。体を支えきれなくなってベッドに倒れ込む。薄れていく意識の奥から、一つの場面が浮かび上がってくる。スマホに表示されているのは、ステータス画面。カードのレアリティの下にカード名が表示されている。


『花吹雪舞う季節 サクラ』


 私は。そう、サクラはゲームのキャラだ。私が好きだったソシャゲの。


 そして私──サクラは意識を手放した。

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