04 厄災前夜[前編]
ソルティード様とジェラルドさんが現れた理由。
それは明日のウィリディシア様の誕生日プレゼントの件だった。
「聞いてくれマチルダ。俺が誕生日プレゼントは何がいいとウィリディシアに尋ねたら……何て言ったと思う?」
「なかなか手に入らない、珍しい薬草……とか?」
「マチルダ! 流石私の助手! 私の欲しいものがよくわかってるじゃない!」
「…………姉さん」
「多分ソルトは、宝石とかアクセサリーとか、そういう答えを期待したんじゃないかなぁと思うよ、ウィリーちゃん」
賑やかに会話しながらお茶とお菓子に舌鼓を打っていると、急に空気がひんやりとした。
「ソルティード殿下。薬草と宝石、両方プレゼントしたら如何でしょうか?」
聞こえた声にビクリと肩を震わせる。
この声……間違いない。
スピルスさんだ。
「それは……もちろん両方準備をしているが…………」
「流石です、ソルティード殿下。ウィリディシア様も喜ばれるでしょう」
「…………スピルス」
スピルスさんの言葉に、ウィリディシア様が立ち上がる。
「私はあなたのことを弟だと思っているし、我がアッシュフィールド家の一員だと思ってるわ」
人形のように美しい、銀髪に葵色の瞳を持つ美少年……スピルスさんが、クスクスと笑う。
「リッジウェイ家の僕が、『始まりの四家』であるアッシュフィールド家の一員なんて恐れ多いですよ、ウィリディシア様」
「…………」
「和やかな空気を壊してしまいましたね、それでは僕は失礼します。皆様、良いひとときを」
ひんやりとした空気をまとわせた足音が遠ざかり、ホッと軽い息を吐く。
「スピルスは相変わらずか……」
「仕方がないわ。あんな目にあったんだもの。流石の私も、心の傷までは癒せない……」
『リッジウェイの惨劇』。
スピルスさんは惨劇を直接目の当たりにした上にご両親を失った。
妹のライラさんも行方不明。
だけど、本当にそれだけなのだろうか?
今朝の夢を思い出す。
スピルスさんがアッシュフィールド家に馴染めないのは、本当に『リッジウェイの惨劇』だけが原因……なのだろうか?
*
「結局夕方まで手伝ってもらっちゃったわね」
「固有魔法でご迷惑をおかけしてしまいましたし、それに……」
「それに?」
「ソルティード様やジェラルドさんとの休憩時間は楽しかったです。色んなお話が聞けて」
申し訳なさそうなウィリディシア様に、にっこりと微笑む。
ウィリディシア様はそのままでいい。
自分のやりたい事に夢中で、真っ直ぐなウィリディシア様に私は憧れているのだ。
「そういえば、これからティアニー家に顔を出すんですっけ?」
「はい、ユスティート様がいらっしゃるみたいですし」
「あの子はヴァニタスが大好きよね」
ヴァニタス様が好きというよりは、王宮に居づらいのだとユスティート様はおっしゃっていた。
何処か自分を恐れるような空気があるのだと。
ソルティード様も、ユスティート様の話はあまりしない。
あの夢が、何か関係しているのだろうか?




