表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/58

02 厄災前夜[前編]



【白昼夢/マチルダ・ピンコット】


真っ白な白衣を着た女性が忙しそうに仕事をしている。

黒い髪に黒い瞳。

でも彼女はウィリディシア様に何処か似ている。

どんなに忙しそうでも、「処方が間違ってるんじゃないか?」と電話口で医師と口論しながらも、活発に働く彼女は何処か楽しげだ。



「キリエ、ただいま」


帰宅した彼女……青枝(あおえだ) 樹理(じゅり)が呼び掛けると、チリリンとオレンジ色の首輪を鳴らして真っ白な猫が駆け寄った。

樹理は靴を脱ぐとキリエと呼んだ猫を抱き上げ、リビングに入るとテレビをつけた。


「…………間に合った」


テレビには4人の男たちが並んで映っている。

司会者に『エリュシオン』と紹介された男たちは別の場所に移動する。

静まりかえる画面の中。

やがて、激しい音と共に3人が楽器の演奏をし始め、1人が叫ぶように歌い出す。


「ほら、キリエ。式睦(のりちか)だよ」


樹理がキリエを撫でる。

キリエは画面の中をじっと見ていた。

青枝 樹理と、ロックバンド『エリュシオン』のボーカリスト“シキ”こと神谷(かみや) 式睦(のりちか)、そして樹理の腕の中にいるキリエは縁が深いのだ。



廃工場で爆発音がする。

樹理が式睦とキリエの名を叫ぶ。


チリリン。


聞き覚えのある音に樹理が目を見開くと、煤や埃で汚れたキリエが廃工場から駆けてきた。

樹理が躊躇わず屈んで両手を伸ばすと、キリエは彼女の腕の中に飛び込む。

樹理がキリエを抱き締めながら立ち上がると、廃工場は大きな音を立てて崩れ落ちた。


「式睦ぁあああ!!」


キリエを抱き締めながら叫ぶ樹理。

彼女の強い瞳から、涙が溢れる。


後日、神谷 式睦の遺体が廃工場の中から見つかった。



事件後も、樹理はいつも通り仕事をしていた。

彼女に群がるテレビや週刊誌の記者を「邪魔です」の一言で一蹴し、調剤薬局でパタパタと仕事をしていた。


樹理に邪険にされた記者たちは、彼女と式睦について、あることないこと記事にした。

しかし、彼女は動じなかった。

いつものように出勤して、帰宅して、キリエと過ごしていた。


そんなある日。


帰宅途中の樹理の自動車が炎上した。

何とか路肩に自動車を寄せると、樹理は脱出を試みた。

……が、脱出は不可能だった。


『エリュシオン』のドラマー、朧月(おぼろづき)ルキアに「キリエをお願いします」とメッセージを送った樹理。

彼女は最期の瞬間、炎上する自動車の中で、携帯電話の中のキリエと式睦と自分のスリーショット写真を見つめて微笑んだ。



ウィリディシア様の助手となってから何度か見る“夢”。

これはきっとウィリディシア様の……。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ