02 餓鬼偏執
雨。
私は今、喪服を着て葬儀場にいる。
雨が止まない。
まるで涙が堰を切ったかのように、お通夜から葬儀までしとしとと雨が降り続けている。
光輝が死んだ。
表向きは不良の喧嘩に巻き込まれて死んだ。
もしかしたら、当事者である光輝自身もそう思いながら死んだのかもしれない。
実際は、式睦が慕っている不良たちの中で、光輝に不満を持っている連中によって殺された。
いくら光輝が強いとはいえ、凶器を持った多人数に不意討ちで襲われれば、敵う筈が無い。
多勢に無勢で、光輝は死んだ。
あの、善意の塊のような男が死んだ。
今、この葬儀の場に式睦はいない。
式睦は警察に事情を聞かれている。
式睦が指示して光輝を襲わせたのではないか……と。
「まさか、式睦くんが?」
「小さい頃、光輝くんや櫻子ちゃんと楽しそうに遊んでいたじゃないか」
「こっちに戻ってきてから、不良たちとつるんでいたらしいわよ」
「あの式睦くんが……」
葬儀場でも、この噂で持ちきりだった。
内心、笑いが止まらない。
光輝を殺したのは私だ。
不良を唆したのも私だ。
光輝を排除する方法と排除の仕方を教えたのは私。
こっそり指示したのも、この私だ。
最も、彼らは私に指示されたなんて言わないだろう。
女に指示され、指示通りに動いたなんて、プライドの高い彼らにとって屈辱でしかない。
だから彼らは黒幕が鬼崎 櫻子だなんて口にはしない。
光輝が鬱陶しかったとか、腹が立ったとか、そんなことしか言わない。
警察は彼らや式睦を嫌悪している。
これまで散々煮え湯を飲まされたのだから。
彼らの背後に私がいるなんて気づきもしない。
「櫻子ちゃん、ずっと泣いてるんだよ」
「そう……お通夜からずっと泣いてるんだ」
「可哀想にねぇ……」
「いくら式睦くんを更生させる為とはいえ、光輝くんが不良になんて近づかなければ」
「櫻子ちゃん、可哀想に……」
私が泣いている?
私が可哀想?
そんな筈があるか。
私は内心、ずっと笑っている。
だって、光輝を殺したのはこの私なのだから。
自分の頬に触れた。
頬は濡れていた。
お手洗いに行くと言って席を立った。
鏡の中の私は、泣き腫らした瞳をしていた。
「ごめん」
掠れたような言葉が漏れる。
「光輝くん……」
光輝の名前が私の口から漏れる。
「光輝くん、ごめんなさい。ごめんなさい……」
光輝への謝罪の言葉が漏れる。
雨が止まない。
涙が堰を切ったかのように、しとしとと雨が降り続ける。
私が泣くのは、今日限りだ。
私はもう泣かない。
だって、私は鬼になった。
人間のように涙を流す資格なんて、私にはない。
今日葬られるのは、光輝だけじゃない。
人間、鬼崎 櫻子も彼と共に葬られるのだ。
鬼崎 櫻子は鬼になった。
人を殺すことすら厭わぬ鬼へと変貌した。
だから、泣くのは今日限りだ。
だって私は人殺しの凶悪な鬼
人のように涙を流す資格なんて、ありはしないのだから。




