04 防衛術式
【ラスティル城・救護室/アレクシス・ピンコット】
俺が目を覚ますと、防衛術式に参加してオーブを埋め込んだ者たちはまだ眠っていた。
「アレクシス、気分はどう?」
「アデル……」
「前世なんてあまり良いものではないでしょう?」
俺の前世は小日向 光輝という少年だった。
俺の固有魔法『治癒』は、あの少女を……鬼崎 櫻子を癒したいという願いから得たものだろう。
「念の為確認したいんだが、前世での君の名前は鬼崎 櫻子か?」
アデルは苦笑を浮かべて首を横に振った。
「いいえ。私の前世での名前は穂波 芽衣子。事件調査中に殺害された女刑事よ。夫も子供もいたわ。あなたは私の前世の夫ではないでしょう?」
「あぁ、小日向 光輝という少年だった。高校生で死んだ」
「…………だから、目覚めがこんなに早いのね」
再び部屋を見渡す。
セオドア陛下も、ナイジェル宰相閣下も、ノアもまだ眠っていた。
だが、フィニスの姿が無い。
「フィニス君は……あぁ、彼は生まれつきの金目だったか」
「良いところに気がついたわね、あなた。フィニス君は気絶すらしなかったわ……というわけでちょっと来なさい」
アデルに引っ張られて部屋を出た。
どうやらアデルは相当に怒っている。
「俺、何かやらかしたか」
俺の言葉に、アデルが溜め息を吐く。
「どうしてノア君を巻き込んだのよ。私がピンコットのオーブを、あなたがマードックのオーブを埋め込めば良かったじゃない」
「…………」
「そうすれば、ノア君は前世を思い出さずに済んだ。私はフィニス君同様生まれつき前世の記憶があるんだもの。これ以上前世を思い出すことはなかった」
正直、前世を甘く見ていた。
アレは、人によっては確実に人格が……人生が狂う。
「…………すまなかった」
「謝罪するならノア君に。それに、私ももっと前世について、あなたにしっかり話をするべきだったわ。ごめんなさい」
アデルの表情が和らいだ。
俺も微笑む。
「君は、生まれつき前世記憶を持っていてよく平気でいられたな」
「眠るように死ぬ薬を飲まされたの。だから、殺された際の衝撃は少なかった。……今思えば、私を殺したあれは安楽死の薬ね。そして連続怪死事件もその薬が原因。今頃分かるなんて悔しいわ」
アデルは前世から知的で、そして逞しい女性だったようだ。
「俺は不良の喧嘩に巻き込まれて死んだ」
「不良?」
「空手を習っていたんだが、多勢に無勢でな」
「あなたが……空手を」
クスクスとアデルが笑った。
「フィジカル面は前世の方が強かったみたいね」
「俺も今から鍛えれば……無理かな?」
アデルはクスクスと笑い続ける。
どうやら怒りの方は落ち着いたようだ。
「私も前世で空手や柔道をやっていたから、本気で鍛えたいなら相手になるわよ」
「…………そうか。前世で刑事だもんな」
「でも、とりあえず……もう少しベッドで休んでいらっしゃい。私はディアドラちゃんと少し話をしてくるから」
アデルはリッジウェイ三姉妹を実の妹のように可愛がっている。
暫くしたらまた様子を見に来るといってアデルは立ち去った。
確かに、まだ目眩や倦怠感が強い。
ベッドに戻ると、隣のベッドで眠っているノアが涙を溢していた。
ノアの前世は、辛いものなのだろうか?
涙を拭うと、ノアがうっすらと唇を開いた。
「光輝くん……」
ビクリと身体が震えた。
俺の名前?
いや、まさか……。
光輝という名前は特別珍しい名前ではない。
「光輝くん、ごめんなさい。ごめんなさい……」
ノアが謝罪し続ける。
ノアが呟く光輝とは、前世の俺のことなのか?
それとも全くの別人?
俺はしばらくの間、ノアのベッドの傍らで立ち尽くしていた。




