02 防衛術式
「僕がマードック家の代表としてオーブを所持することは既に決定事項なんですね?」
「すまない……ノア」
長兄アレクシスが顔を歪め、僕に頭を下げた。
「ピンコット家の代表をアデルに任せれば、俺がマードック家の代表になることも可能だ。だが、オーブの保持者は不届き者に命を狙われる可能性がある。もちろん、アデルがそんなに簡単に負けるとは思わないが……」
長兄アレクシスはアデル様をお守りしたいのだろう。
だが、その為に僕を犠牲にしてしまうことに罪悪感を抱いている。
「アレクシス兄さん、アデル様をお守りしたいのは僕も同じです。僕にとってアデル様は恩師ですから。それに、アレクシス兄さんは今はピンコット家の人間です。マードック家の適任者が僕しかいないのであれば、僕はマードック家の者として、騎士として、その役目を果たすまでです」
「ノア……」
アレクシス兄さんが僕を抱き締めた。
歳が離れていなかったら、この人は僕の理解者になってくれたのかもしれない。
それに、少し安心した部分もある。
アレクシス兄さんとアデル様は結婚して随分経つのに未だ子宝に恵まれない。
騎士学校では、愛の無い政略結婚で兄さんとアデル様の関係は冷えきっているのではないかという噂すらあった。
どうやら噂は間違っていたようだ。
アレクシス兄さんはピンコット家の当主ではない。
兄さんは婿の立場でありながら、当主であるアデル様に代わり危険に身を投じる覚悟を決める程に、アデル様を深く愛している。
そんな兄さんの想いに、アデル様への愛に、僕は安堵した。
「随分しっかりした弟じゃないか、スヴェン」
「えぇ……まぁ……」
次兄スヴェンは相変わらずだ。
セオドア陛下の言葉にも視線を逸らしたまま、顔を上げようとしない。
次兄の代わりに僕に頭を下げたのは、次兄と結婚したばかりの宮廷魔術師ディアドラだった。
「ありがとうございます、ノアさん」
「いえ、マードック家に生まれし者の責務なら、それを果たすのが騎士の役目です、ディアドラ様」
「“様”はやめてください。私はあなたの義理の姉なのですから」
青紫の長い髪が妖精のように美しいディアドラ義姉さんは、ふわりと華やかで美しい笑みを浮かべた。
「もうひとつ、あなたにお伝えしなければならないことがあるのです……ノアさん」
「はい、何でしょうか?」
「オーブの保持者は金目となり、前世を思い出します」
あの楽しかった幼き日々を思い出す。
常にお兄さんぶっていた、見た目は20代後半の颯志が、前世でお兄さんだった僕より年下のフィニスにタジタジだったのが面白かった。
あの時、僕の前世は何なのか気になったのは事実だ。
だが、フィニスはそんな僕に否定的だった。
「ノア。お前にも、誰にも聞かせたくない過去のひとつやふたつあるだろう。前世を思い出すのは、それが増えるようなモンだ」
あの時のフィニスの言葉が脳裏に響く。
「前世の記憶を思い出した者の中には、前世に引き摺られ、錯乱する者もいます」
もしかしたら、もう少し考える時間が必要だったのかもしれない。
アデル様と、アレクシス兄さんに相談して、アレクシス兄さんにマードック家の代表としてオーブを保持してもらう……その方が良かったのかもしれない。
僕はフィニスに、ディアドラ義姉さんに忠告されて尚、前世を甘く見すぎていた。
後悔しても、もう遅いのだけれど。




