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02 畏怖嫌厭


【ティアニー家・地下の湖/ノア・マードック】


14歳。

僕はラスティル騎士学校に合格した。


騎士学校には実技試験がある。

颯志から特訓を受けた僕は難なく合格した。


しかし、僕が遊び歩いているようにしか見えなかったらしい次兄スヴェンは驚いていた。


そして、僕の固有魔法『認識齟齬』。

僕は、僕が存在しているにも関わらず、相手に僕の存在を認識させなくすることができる。

戦闘に役立つこの固有魔法を父や次兄が知ったのも、騎士学校合格後だった。

颯志やフィニス、ティアニー家の皆はとっくの昔に知っているのに。


それが何だか面白かったし、けれど同時に悲しかった。

やはり父や次兄は僕を見てはいないのだと。

僕の成長にも気づいていないのだと……それがとても悲しかった。


今日はティアニー家の地下の湖でサンドイッチパーティーだ。

僕の騎士学校合格祝い。


料理好きのフィニスはティアニー家の屋敷で御馳走を作るつもりだったが、僕が地下の湖でサンドイッチパーティーにしてくれと頼んだ。


騎士学校入学後、僕は寮に入る。

精霊や水妖の皆とワイワイ楽しめる機会も少なくなってしまうから。

フィニスも了承してくれた。



「お兄さん、ノアなら絶対に合格できると思ってたけどね」


人型になってサンドイッチをパクつきながら颯志が言う。


「最近はお前が押され気味だからな」


精霊メモリアの弟分で湖に住み着く水妖、キョウがジト目で颯志に言う。


「キョウ酷い。お兄さんが若くないみたいに」

「実質この面子の中じゃ長老に近いだろうが、お前は」

「お兄さん、メモリアさんよりは若いけど!?」

「……キョウ、ユズキ。貴方たちは私がお婆さんだとでも言いたいのかしら?」

「「ごめんなさい」」


仲良く精霊メモリアに叱られる、颯志とキョウ。

同じ水妖同士だからなのか、キョウも颯志も遠慮がない。


「そういえば、フィニスも騎士学校受けるの?」


僕のひとつ下で現在13歳。

今は同じラスティル基礎教育学校に通うフィニス。

彼も僕と一緒に颯志の訓練を受けていたが、彼には魔法の才もあった。

ラスティル学術学校に入学して魔法の才を伸ばす道もあるのにと告げると。


「ティアニー家の任務を果たす為には、ある程度の体力や戦闘技術は必要だ」

「…………そっか」


ラスティル王国の治安維持と聖地である地下の湖の守護を担うティアニー家。

フィニスは13歳でも立派な当主だ。


「フィニスは凄いな。自分の役目とか、そういうのしっかり考えてて」

「そんなことない。凄いのはノアだ」

「…………僕?」

「このラスティル王国で、今ティアニー家や俺を恐れないのはノアくらいだ。後見人のアッシュフィールド当主もこの屋敷には滅多に足を運ばない」


ティアニー家も、フィニスも、ラスティル王国では恐怖の対象だ。

基礎教育学校でも孤立している姿をよく見かける。

でも、僕がフィニスやティアニー家を恐れないのは勇猛果敢だからではない。


「…………僕は多分、ラスティル王国で一番の臆病者だよ。怖いことが山程あって、それらよりフィニスやティアニー家が怖くないってだけ」


一番の恐怖は、男だとバレることだ。

基礎教育学校に制服はない。

だから、女装で今まで来てしまった。

この地下での特訓も、今だにフィニスが作ってくれた女性用の稽古着を愛用している。


けれど、もう14歳だ。

近く、声変わりするだろう。

身体も、男のそれへと変化していく。


皆を騙している罪悪感が痛かった。

皆に男だとバレるんじゃないかという恐怖感が痛かった。


皆に、フィニスに……そして颯志に。

男だとバレて嫌われるのが恐ろしかった。


僕は臆病者だ。

こんなにも僕のことを想ってくれる人たちに、自分の本当の性別すら打ち明けることができない。







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