05 写実描写
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古き昔、神の使いは人々に金色の叡知を授けた。
しかし、神に離反した悪魔たちは人々が叡知を与えられることが心底気に食わなかった。
人々は愚かなままでいい……白き髪に赤き瞳を持つ悪魔たちは、金色の叡知を授かった人々を次々に引き裂いた。
叡知を得た人々は、悪魔たちに抵抗した。
抵抗の果てに、悪魔を倒した者たちは、更なる叡知と神の恩恵なる強大な力を授かることができた。
人々と悪魔の狩り合いが発生した。
双方に多大なる被害を出したこの狩り合いの終止符を打ったのは悪魔の王……魔王だった。
魔王は人間の王たちと条約を結んだ。
魔王と悪魔は人間には手を出さず、辺境の地アリスティアで静かに暮らす。
代わりに、人間たちもアリスティアとそこで暮らす悪魔たちには手を出さないと誓うこと。
人間の王たちはこれを受け入れた。
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この伝説が真実なのか、それとも『金目の病』をベースにしたお伽噺なのか……夢として見ていない私には判断がつかない。
しかし、確かなことがひとつある。
遥かなる時を越え、この誓いは破られたのだ。
アリスティア王国は人間の国に襲われ壊滅し、白い髪と赤い瞳を持つ“アリスの民”たちは虐殺され、逃げ伸びた者も「悪魔だ」「魔王の手先だ」と迫害を受けた。
アルビオンは典型的な“アリスの民”の容姿だ。
寮生活では迫害に合うかもしれない。
そう判断した両親が、アルビオンをピンコット家に住まわせたのだ。
「昨夜、ティアニー家に行ったの?」
「コイツが地下の湖で水浴びしたいと言い出したから、フィニスさんに頭を下げた」
ティアニー家の地下には地下水脈の水が溜まった湖がある。
その場所はラスティル王国の聖地でもあって、聖地を守る為に地上にティアニー家の邸を建てたと言った方が正しいかもしれない。
地下の湖には精霊や水妖が集まるのだと、フィニス様やヴァニタス様、ユスティート様やキョウが言っていた。
ヴァニタス様はラスティル王国の第2王子でユスティート様のもう一人のお兄様。
ヴァニタス様は訳あってティアニー家に預けられている。
何故か学園にも通っていない。
ユスティート様はヴァニタス様に懐いていて、幼い頃から頻繁にティアニー家に泊まっていた。
騎士学校に入学した今でも、週末は殆どティアニー家で過ごしている。
キョウとはティアニー家で出会った。
彼は私と同じ、左目が金色の水妖ケルピーだ。
普段は馬の姿だが、時折私よりも少し幼い……14歳くらいだろうか?……少年の姿になる。
「ありがとう。時間に余裕があればティアニー家に顔を出すわ」
私はアルビオンに向けてにっこりと微笑むと、彼にくるりと背を向けて、玄関へと向かった。
「そろそろ……始まるな」
私の後ろでアルビオンがこんなことを呟いていた。
だが、何が始まるのか私にはわからない。
ただ漠然と「そういえば、明日はウィリディシア様の誕生日だ」と思った。