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03 薄紅恋詩


【ラスティルの森/ノア・マードック】


あの日、僕は迷い込んだラスティルの森で獣型の魔物に襲われた。

久々の獲物なのか、獣は舌なめずりをして見せる。


僕に恐怖はなかった。

あったのは悲しみと切なさだけだった。


「このまま魔物に殺されたら、お父様は悲しんでくれるかな?マードック家の恥だと激怒してもいい。僕に関心を持ってくれるなら」


僕の名前はノア・マードック。

王の護衛として、“武”の分野で王を支えるマードック家の三男。


しかし、父は僕には無関心だった。


原因は、僕の容姿だ。

赤ん坊の頃は、男児としてそれなりに関心を持っていたらしい。

けれど、僕が成長していくに従って、父は僕への関心を失った。

僕が母似の、女性的な容姿だからだ。


“武”を尊ぶ父の関心は、常に年の離れた次兄スヴェンに向いていた。

ラスティル騎士学校を首席で卒業し、若くして次期王位継承者であるセオドア王子の護衛を任されている次兄スヴェン。

優秀な次兄にのみ、父の関心は向いていた。


僕がどれだけ剣や体術の訓練に励んでも、父は全く僕に関心を持たない。

やがて僕は、剣の訓練も体術の訓練もやめてしまった。


代わりに僕は、人形のような妹シェリルのドレスやアクセサリーを奪い、女の子のように着飾り始めた。

最初の動機は、父の叱責を求めてのことだった。


剣や体術の訓練をやめて、妹のドレスやアクセサリーを奪い、身につける。

流石の父も、僕を叱責するだろうと思った。


しかし、僕を叱責したのは次兄スヴェンだけだった。


父は僕に無関心なまま。

母に至っては、僕用のドレスやアクセサリーを仕立て始めた。

人形のように表情の動かないシェリルより、僕にドレスを着せた方が楽しいと思ったのだろう。


わざと着飾った姿で父の前を横切っても、父は眉ひとつ動かさない。


ある日、僕はとうとう耐えられなくなってマードック家を飛び出した。


その結果がこのザマだ。

剣も持たずにドレス姿のままでラスティルの森に迷い込み、獣型の魔物に襲われている。


僕は抵抗するのをやめた。

どうせなら、マードック家の汚点として醜く散ってやる。

そう、覚悟を決めた時だった。


ぽよん。

1匹のスライムが僕の前に踊り出た。

魔物が増えた。

とはいえ、僕が死ぬことに変わりはない。


獣がスライムを威嚇する。

仲間割れだろうか?

そんな風に、半ば達観して様子を窺っていた時だった。


スライムが突如長身の男性の姿へと変わった。

次兄スヴェンと変わらないくらいの長身。

この世界では見慣れない服越しにでもわかる、無駄のない筋肉。

両手のみ透明な刃と変化させた男性は颯爽と魔物を切り刻む。


獣型の魔物は、悲鳴すら上げなかった。

悲鳴を上げる間もなく、男性に仕留められてしまった。


これが、僕と柚希(ゆずき) 颯志(そうし)の出会いだった。







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