01 薄紅恋詩
【日本/鬼崎 櫻子】
私の名前は鬼崎 櫻子。
私には大好きな幼馴染みがいた。
神谷 式睦。
まだ、小学校にも上がらない頃だった。
「幼児の恋なんて……」と馬鹿にする人が圧倒的多数だろう。
それでも私は確かに式睦に恋をしていたし、彼のことを愛していた。
ある日、式睦の引っ越しが決まった。
大人の都合に、私たち子供は逆らえない。
「櫻子、俺……櫻子の事が好きだ」
別れの日、告白は式睦が先だった。
私はポロポロと涙を溢し、しゃくり上げながら必死に言葉を紡いだ。
「私も。私も式睦君のことが大好きだよ。本当は離れたくない」
私の言葉に、式睦は一丁前に私のことを抱き締めた。
「手紙、書くよ。文通しよう」
式睦に抱き締められた私は、必死にコクコクと頷く。
「大人になったら、必ずこの街に戻ってくる。櫻子に会いに来る。……いや、櫻子を迎えに来る」
「待ってる。式睦君のこと、ずっとずっと待ってる」
「…………ありがとう、櫻子」
それから数年間、文通のやり取りは続いた。
式睦からの手紙は、今でも大切に保管している。
最初は辿々しい字で、それでも必死に私に伝わるように書いてくれたことがわかる。
小学校3年になると、字はとても読みやすいものに変わっていた。
小学校4年生になって、突然式睦からの手紙が途絶えた。
私は何通も、何通も、式睦に手紙を送った。
けれど、全く返事は返って来ない。
数か月後、別の小学校に通うもう一人の幼馴染みが、母親と共に私を訪ねてきた。
小日向 光輝。
光輝は開口一番に私にこう言った。
「式睦が事故にあった。今入院している」
光輝のお母さんが重ねて説明してくれる。
式睦の命に別状はないが、長期入院が必要。
腕を骨折しているので、私への返事は書けないが、私の手紙を嬉しそうに読んでいる。
だから、ほんの少しだけ待っていて欲しい……と。
「私、待ちます。式睦が元気になるなら、私はいくらでも待ちます」
私の言葉に、光輝も光輝のお母さんも安心したようだった。
私は毎日、寝る前に夜空を見上げながら神様に祈った。
式睦の怪我が治りますように。
式睦が元気になりますように。
1年の月日が経った。
3年の月日が経った。
式睦からの手紙は途切れたままだった。
年賀状すら届かない。
私の祈りは、別の内容に変わった。
式睦からの手紙が届きますように。
式睦が会いに来てくれますように。
式睦からの連絡が途絶えたまま、私は中学生になっていた。
艶やかな長い黒髪。
古風ながら整った容姿。
自分で言うのもどうかと思うけれど、私は美人に該当するらしく、男子生徒には人気だった。
けれど、私は同じ中学の男子生徒には興味がなかった。
私が想っているのは今も昔も式睦だけだった。
私は中学3年になるまで、ただひたすら式睦だけを思い続けた。




