04 無始無終
玉座に上がった僕。
座るよう促すスピルス・リッジウェイ。
確かに、父、長兄、次兄、そしてクーデターを起こしたひとときの女王シェリル・マードック亡き今、此処に座るべきは第3王子のユスティートだろう。
だが、気分はまるで処刑される人間だ。
絞首台で首に縄を引っ掛けるような気分で、僕は玉座へと座る。
玉座に座った途端、何かが全身に流し込まれるような感覚に陥った。
「こ、れは……」
魔力だ。
玉座が強制的に固有魔法を展開させようと、魔力に働き掛けている。
『だめ! 晶仁さん!』
あぁ、やっぱりそこにいるんだね。
マチルダ・ピンコット。
君は『写実描写』が見せる夢の中で、きっとこの光景を見ているんだ。
こんな光景……見せてごめん。
君の愛するユスティートが、君の愛するラスティル王国を滅ぼす光景を見せてごめん。
涙が頬を伝う。
僕の……ユスティートの固有魔法『永眠』が発動する。
「こ、これが……これが、黒須 晶仁の完全犯罪……何と……何と安らかな、眠……り、だ……」
高笑いしていたスピルス・リッジウェイがゆっくりと意識を失い、眠りにつく。
ラスティル国民も同じだ。
ラスティル王国全域で、国民たちが眠りにつく。
次々と、意識を失うように、息を引き取ってゆく。
ラスティル王国の滅亡は、静かな滅びだった。
皆が眠るように、安らかに、息を引き取ってゆく。
玉座から、光が消える。
死の国となったラスティル王国の玉座に、僕はたった一人で座っていた。
静かだった。
ざわめきも、騒音も、何もない。
僕は立ち上がり、ゆっくりと玉座を降りた。
玉座の間には血と肉片と脂と骨が散らばっている。
僕はその中心へと向かった。
ヴァニタスの首がゴロリと転がっている。
僕はその首を抱き締めた。
「父上。何故黒須晶仁を…僕を産んだのですか? 僕が苦しむとわかっていたのでしょう? それでも尚、僕を産んだのは何故ですか? 貴方は僕の物語で、誰に何を伝えたかったのですか?」
返事はない。
僕はヴァニタスの見開かれた瞳を閉じて、そっと首を置いた。
そして彼の剣を掴むと、マチルダ・ピンコットの元へと向かう。
夕暮れ色の少女は、見る影もなかった。
それでも愛しさが込み上げる。
“ユスティート”は心の底から、彼女を愛していたのだろう。
僕はマチルダ・ピンコットの亡骸を抱き締めた。
途端に、涙が堰を切ったかのように止めどなく溢れ出す。
この涙が僕のものなのか、それとも“ユスティート”のものなのか、もう僕には判断できなくなっていた。
「君は僕の全てを知っても、それでも優しいと言ってくれるんだね……」
僕は泣いた。
涙が枯れるまで、泣いて、泣いて、泣いた。
そして、涙が枯れた後。
僕はヴァニタスの剣を自身へと向けた。
この死の国で、自分だけが生きていても仕方がない。
また、生まれ変わるのかもしれない。
生まれ変わった先は地獄のような世界なのかもしれない。
安楽死とは、地獄巡りの速度を速めるだけのものだったのかもしれない。
死んでも、人は安らぎを得られない。
転生して、また人は生きていかねばならない。
安楽死に……前世の僕や香代の所業に、意味はあったのだろうか?
今はもう、わからない。
ただ……。
「今は、ひとときの眠りが欲しい」
僕はヴァニタスの剣で、自身の胸を刺し貫いた。
これでいい。
大罪人の僕に、安らかな眠りは相応しくない。
僕に相応しいのは、痛みと苦しみの中で事切れる……そんな眠りだ。




