表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/58

04 無始無終


玉座に上がった僕。

座るよう促すスピルス・リッジウェイ。


確かに、父、長兄、次兄、そしてクーデターを起こしたひとときの女王シェリル・マードック亡き今、此処に座るべきは第3王子のユスティートだろう。

だが、気分はまるで処刑される人間だ。

絞首台で首に縄を引っ掛けるような気分で、僕は玉座へと座る。


玉座に座った途端、何かが全身に流し込まれるような感覚に陥った。


「こ、れは……」


魔力だ。

玉座が強制的に固有魔法を展開させようと、魔力に働き掛けている。


『だめ! 晶仁さん!』


あぁ、やっぱりそこにいるんだね。

マチルダ・ピンコット。

君は『写実描写』が見せる夢の中で、きっとこの光景を見ているんだ。


こんな光景……見せてごめん。

君の愛するユスティートが、君の愛するラスティル王国を滅ぼす光景を見せてごめん。


涙が頬を伝う。

僕の……ユスティートの固有魔法『永眠』が発動する。


「こ、これが……これが、黒須 晶仁の完全犯罪……何と……何と安らかな、眠……り、だ……」


高笑いしていたスピルス・リッジウェイがゆっくりと意識を失い、眠りにつく。


ラスティル国民も同じだ。

ラスティル王国全域で、国民たちが眠りにつく。

次々と、意識を失うように、息を引き取ってゆく。


ラスティル王国の滅亡は、静かな滅びだった。

皆が眠るように、安らかに、息を引き取ってゆく。


玉座から、光が消える。

死の国となったラスティル王国の玉座に、僕はたった一人で座っていた。


静かだった。

ざわめきも、騒音も、何もない。


僕は立ち上がり、ゆっくりと玉座を降りた。

玉座の間には血と肉片と脂と骨が散らばっている。

僕はその中心へと向かった。

ヴァニタスの首がゴロリと転がっている。

僕はその首を抱き締めた。


「父上。何故黒須晶仁を…僕を産んだのですか? 僕が苦しむとわかっていたのでしょう? それでも尚、僕を産んだのは何故ですか? 貴方は僕の物語で、誰に何を伝えたかったのですか?」


返事はない。

僕はヴァニタスの見開かれた瞳を閉じて、そっと首を置いた。

そして彼の剣を掴むと、マチルダ・ピンコットの元へと向かう。


夕暮れ色の少女は、見る影もなかった。

それでも愛しさが込み上げる。

“ユスティート”は心の底から、彼女を愛していたのだろう。


僕はマチルダ・ピンコットの亡骸を抱き締めた。

途端に、涙が堰を切ったかのように止めどなく溢れ出す。

この涙が僕のものなのか、それとも“ユスティート”のものなのか、もう僕には判断できなくなっていた。


「君は僕の全てを知っても、それでも優しいと言ってくれるんだね……」


僕は泣いた。

涙が枯れるまで、泣いて、泣いて、泣いた。


そして、涙が枯れた後。

僕はヴァニタスの剣を自身へと向けた。


この死の国で、自分だけが生きていても仕方がない。


また、生まれ変わるのかもしれない。

生まれ変わった先は地獄のような世界なのかもしれない。

安楽死とは、地獄巡りの速度を速めるだけのものだったのかもしれない。


死んでも、人は安らぎを得られない。

転生して、また人は生きていかねばならない。

安楽死に……前世の僕や香代の所業に、意味はあったのだろうか?


今はもう、わからない。

ただ……。


「今は、ひとときの眠りが欲しい」


僕はヴァニタスの剣で、自身の胸を刺し貫いた。


これでいい。

大罪人の僕に、安らかな眠りは相応しくない。

僕に相応しいのは、痛みと苦しみの中で事切れる……そんな眠りだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ