02 無始無終
スピルスさんが笑みを浮かべながら玉座へと向かう。
玉座ではシェリル様がフィニス様の首ごと氷の槍で胸を貫かれ、事切れていた。
「…………っ!」
スピルスさんは玉座から、氷の槍を引き抜いた。
そしてフォークごと嫌いな食べ物を捨てるかのごとく、氷の槍に貫かれたフィニス様の首とシェリル様の身体を容赦なく玉座の下へ引き摺り落とした。
シェリル様の遺体から、虎の紋章が描かれた白いオーブが転がる。
スピルスさんは玉座から降りるとそのオーブを拾った。
「アッシュフィールドのオーブ。これで全て揃った。玉座をうっかり壊してしまったんじゃないかと心配したが……」
玉座の背もたれの窪みには、5つの穴がある。
スピルスさんは窪みに、5つのオーブを嵌めてゆく。
上部に黒。
ティアニーのオーブ。
左に青。
マードックのオーブ。
下部に赤。
ピンコットのオーブ。
右に白。
アッシュフィールドのオーブ。
中央に黄色。
ラスティル王家のオーブ。
ラスティル城を中心に、ティアニー邸が北、マードック邸が東、ピンコット邸が南、アッシュフィールド邸が西に位置する。
方角がオーブの位置なのだろうか。
中央の窪みに黄色のオーブを嵌めると、玉座が金色に光輝いた。
「さぁ、玉座に座れ、ユスティート。…いや、黒須晶仁」
この台詞は!?
私は隣に横たわっていたユスティート様を見た。
ユスティート様は意識を取り戻していた。
しかし、その瞳の色は……金色だった。
金色の瞳のユスティート様はゆっくりと身体を起こすと立ち上がり、玉座へと向かう。
「待ってください!」
私も立ち上がった。
そしてユスティート様の元へと向かう。
これは……この光景は…………。
ユスティート様は、金色の瞳でぼんやりと玉座を見つめていた。
夢で見た光景。
彼はユスティート様ではない。
恐らく、彼は……。
「黒須 晶仁さん……ですね」
あの夢では、手が届かなかった。
けれど、今なら手が届く。
私は彼に向けて、必死に手を伸ばした。
「生まれ変わっても本質までは変わりません。貴方はユスティート様と同じ、本来は正義感が強く、優しい人です」
ぼんやりと玉座を見つめていたユスティート様が……いいえ、晶仁さんが、私に視線を向ける。
私はそんな晶仁さんに語りかける。
まだ間に合う。
まだ晶仁さんは、この世界でその手を血で汚していない……。
「貴方は、沢山の人々を死に追いやって傷つかない人ではありません。まだ間に合います。どうか、私の手を取ってくださ……」
それ以上言葉を紡ぐことはできなかった。
私の身体を、喉を、風の刃が裂く。
私を、刃が切り刻む。
待って。
待って、もう少し。
晶仁さん、貴方と……。
けれど、もう間に合わなかった。
私の固有魔法は『写実描写』。
私が見る夢や幻覚、白昼夢は“写実”。
全て現実にあったこと。
或いはこの先現実に起きること。
変えることは無理だった。
「明日ラスティル王国が滅びて、お前は死ぬ……としたら、お前は生きたいか?」
キョウは知っていたのかな?
「俺が、お前を逃がすと行ったら? お前を連れて、遠く……遥か遠くの国まで逃げて、お前が婆さんになって死ぬまで俺がお前を守ると言ったら?」
この未来を、昨日の時点で、彼は把握していたのかな?
把握していて、あの言葉を私に言ってくれたのかな?
ごめんね、キョウ。
私はこうなることがわかっていたとしても……それでも私は、この未来を選んだ。
ユスティート様。
貴方の前世がどんな人でも、貴方の固有魔法がどんなものでも。
それでも私は、貴方を今も、これからも愛してる……。




