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01 無始無終


【ラスティル城・玉座の間/セオドア】


ヴァニタスを助ける気などなかった。

これっぽっちもなかった。


ヴァニタスはフィニスを殺した。

フィニスだけじゃない。

アルビオンやシルヴェスター、スヴェンまで殺しているかもしれない。


それに、こいつの中身は俺の息子じゃない。

赤津 孝憲という他人だ。

助ける義理なんかない。


蹴り飛ばせば良かった。

なのに……。


吹き飛ばされてきたヴァニタスの姿が、レオノーラに重なった。

思わず……抱き締めていた。


レオノーラ。

奈津美。

すまない。


お前の子供たちを。

お前と僅かな時間暮らした、このラスティル王国を。

俺は守れないかもしれない。


一度目はフィニスと同じ物語の中で、『残響迷夢─惨劇の母体たち─』という物語の中で、創造主として彼女を不幸のドン底に叩き落とした。


この世界での妻、レオノーラ。

彼女の前世の名前は園村(そのむら) 奈津美(なつみ)


彼女がレオノーラとして生を受けた、この二度目の世界では、俺は無力な夫として、若くして逝った彼女を見送るしかなかった。


ソルティード。

ヴァニタス。

ユスティート。


彼女との子供を、誰ひとりとして守ることは出来なかった。


レオノーラ……奈津美…………。

もう一度会えたら、今度は俺を置いていかないでくれ。


ナイジェルとマドリーンのように。

スヴェンとディアドラのように。

アデルとアレクシスのように。


俺の隣には、お前が必要なんだ。



【ラスティル城・玉座の間/マチルダ・ピンコット】


「ユスティート様……」


私を抱き締めたまま壁に叩きつけられ、ユスティート様は意識を失っていた。

私はゆっくりと身体を起こす。

ユスティート様に大きな怪我はない。

安心して、振り返ると、そこは……。


地獄だった。


ヴァニタス様とセオドア様だった“モノ”が、肉塊や肉片となり飛び散っている。

そのひとつにスピルスさんが手を翳すと、黄色のオーブが現れた。

鹿に似た形。

龍に似た顔。

角を持ち、牛の尾と馬の蹄を持つ。

王家の紋章でもある存在しない幻の獣が刻まれたそのオーブが、スピルスさんの手に収まった。


「これで4つ」

「…………っ、《ファイアバレット》!」


ディアドラ様が叫ぶ。

炎の弾丸が、スピルスさん目掛けて飛んでゆく。


だが、炎の弾丸は触れることなく弾かれた。


「そ、れは……まさ、か…………」

「私の固有魔法は『模倣』。本人には劣るが、固有魔法も『模倣』できる」

「やはり、ヴァニタス様の『領域』」

「結界を張る程度しか模倣できないがね。奴みたく、領域内の物質を使ってあれこれ錬成するなんてチートな技は使えない」


笑うスピルスさんの足元が液状化する。

水妖ケルピーと化したキョウが液状化した床から現れ、スピルスさんの足に噛みついた。

そのまま床に引き摺り込もうとする。


「そういえば、あのスライムは面白い固有魔法を持っていたな」


たちまち、スピルスさんがスライムに『変身』した。

『変身』した彼は液状化した床に溶け込み……。


「ぐぁあああああ!」

「くっ……あ…………」


液状化した床を水の刃に変えて、キョウとディアドラ様を貫いた。


「ひっ…………!」


私が悲鳴を漏らすと、ぴょんと液状化した床から跳ねたスライムは、スピルスさんの姿に戻って着地する。


「生きていたか、マチルダ・ピンコット。まぁ、どうせすぐ死ぬが……」


スピルスさんが天井に手を翳す。


「《薬物精製》《シアン化カリウム致死量付与》《アイスランス》」


ウィリディシア様の『薬物精製』を『模倣』しながらスピルスさんは笑う。


「…………お前は後回しだ。標的、シェリル・マードック!」


玉座のシェリル様が無表情のまま、フィニス様の首を抱き締める。

そしてフィニス様の首ごと、致死量の毒物を付与された氷の槍で、玉座に縫い止められるように刺し貫かれた。





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