04 写実描写
アッシュフィールド家の令嬢、ウィリディシア様は第1王子ソルティード様の婚約者……将来の王妃様だ。
彼女は魔術師としても、薬学の研究者としても優秀で、学術学園卒業後も講師として残り、薬学を教えながら研究を続けている。
私はまだ学生であるが、ウィリディシア様の研究のお手伝いをしている。
ウィリディシア様はご自宅にも研究室を作り、休日でさえも熱心に研究に勤しんでいる。
ご自宅での研究は趣味の一環とおっしゃっているが、助手としてそんなウィリディシア様を放ってはおけない。
*
「マチルダ様、今日も素敵です」
「貴女たちの腕が良いからよ……リザ、ドナ」
瞳とお揃いの茜色のリボンにドレス。
片目が金色の不気味な娘の私でも、彼女たちの手にかかればそれなりに見えるから不思議だ。
「本当は真っ先にユスティート様にお見せしたいのですよ、私たちは」
「お嬢様、ダメですよ。そんなにアッシュフィールド家に通い詰めてはユスティート様が嫉妬してしまいます」
「アッシュフィールド家にはシルヴェスター様やスピルス様がいらっしゃいますからね」
スピルスという言葉に、身体が跳ねた。
あの夢の後、彼に会うのは正直怖い。
けれど怯えた表情を浮かべてしまっては、リザとドナが心配してしまうだろう。
私は精一杯の笑顔を浮かべた。
*
自室を出て玄関に向かう途中、私に向かって謎の物体が飛び掛かってきた。
寸でのところで、一人の少年がそれを阻止する。
「ありがとう、アルビオン」
「いや、今のはこっちが悪い……というか、コイツが悪い」
真っ白な短髪にルビーのような真っ赤な瞳を持つ1つ年下の少年が、捕縛したスライムをつねっていた。
私に飛び掛かってきたスライムは、お構いなしに少年の肩の上でピョンピョン跳ねている。
……スライムをつねってお仕置きになるのだろうか?
「アンタの婚約者」
「……?」
「ユスティート王子、昨日ティアニー家にいた。明後日までティアニー家に泊まるらしい」
顔を出せということなのだろうか?
「ありがとう、教えてくれて」
「……いや」
アルビオンは無愛想だが、優しい少年だ。
彼は、ピンコット家の者ではない。
かつて滅ぼされたアリスティア王国の生き残りだ。
私の両親が運営する学園には、国外の者でも入学ができる。
国外の生徒の為の寮もしっかり完備している。
アルビオンは、騎士学校入学の為にラスティル王国へ来た。
それだけなら、特に珍しいことではない。
問題は、真っ白な短髪にルビーのような真っ赤な瞳という彼の容姿だ。
ラスティル王国には……いえ、この世界には、こんな伝説がある。