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05 宿命の檻



「僕は、僕の正義が万人の正義とイコールではないことは理解している」


夏の終わりのゴルフ場。

今日は貸し切りで、この国のトップと重鎮たちがひとときの夏期休暇を満喫している。


晶仁はゴルフ場に爆弾を仕掛けた。

最早テロ行為だ。

晶仁は正義の人間どころか卑劣なテロリストとして報道されるだろう。


「だって、僕は先輩と玲音君を殺したんだから……自ら死を望んではいなかった、彼らを」


正確には玲音は晶仁が殺したわけではない。

けれど、晶仁が殺したも同然だ。

晶仁が沙条市で薬をバラ撒かなければ、芽衣子を殺さなければ玲音は死ななかっただろう。


スマートフォンの向こうから、凛音の声がする。

この蝉時雨の中でも凛としたその声に、言葉に、晶仁は目を細める。


「さよなら、凛音ちゃん。君の正義は僕には眩し過ぎた……」


そう告げた晶仁は、爆弾の遠隔スイッチを押す。

凛音の制止する声が響くが……もう遅い。


爆音。

爆風。


ゴルフ場の至る所に仕掛けた爆弾が次々に爆破してゆく。

晶仁の立っている場所も例外ではなかった。


爆弾は晶仁自身も粉砕し、木々は燃え、豊かな自然空間は阿鼻叫喚の地獄と化した。



ヴァニタスは苦しそうに表情を歪ませている。


「『隷属の輪』の洗脳に逆らっているのか? そんなことをしても首が飛ぶだけなのに……さぁ、フィニス・ティアニーの首を渡せ」

「う、、る、さい……」


言葉とは裏腹に、ヴァニタスの身体は素直にフィニスの首をスピルスへと渡す。


「く、、そ」

「良い顔だ孝憲。前世も現世も、お前は虐め甲斐がある」


スピルスはフィニスの首を受け取ると、額に手を翳した。


それは、不気味だが神秘的な光景だった。

フィニスの額から黒いオーブが現れた。

蛇の……ティアニー家の紋章が刻まれた、黒曜石のように美しいオーブ。


「これで3つ目」


スピルスはオーブを手にしてニヤリと口を歪ませると、フィニスの首を玉座へと投げた。

フィニスの首はシェリルの膝の上に転がり、彼女のドレスを赤に染める。


「夫の首を投げつけられても平然としているか……流石は『俯瞰』の女神。自身の前世を自らの手で分断しただけある」

「言いたいことはそれだけか、スピルス・リッジウェイ。いや、虎田 大和。私がアッシュフィールドのオーブを手中に収めていることを忘れたのか」


膝の上に転がる首には見向きもせずに、シェリルは淡々と口にする。


「神の視点に寄り過ぎて、人間の感情を失ったか、シェリル・マードック。まぁ、いい。アッシュフィールドのオーブも玉座も、お前を殺して奪うまでだ」

「やっ、、めろ!!」


ヴァニタスがスピルスへと剣を向ける。


「『隷属の輪』を嵌めて尚、主へと剣を向ける……その意味は理解しているのだな、ヴァニタス」

「あぁあああああ!!」


叫びながらスピルスに向かって剣を振るうヴァニタスをスピルスは風魔法で突き飛ばした。

…………父上の元へ。


「に、逃げろ、ちち、うえ……俺を、放って、はや、、く」


父上は戸惑いながらも、ヴァニタスを抱き締める。


「頼む、、から……アンタは、俺を、忌避してた、、筈、だろ」


父上自身、自分の行動に困惑しているようだ。

けれど、ヴァニタスを抱き締める腕を緩めない。

むしろ、深く抱き締める。


「いつもいつも……こんな、時に、、だけ、、父親らしさ、発揮、すんじゃ、ねぇ、、よ」


悪態を吐きながらも、ヴァニタスの瞳に涙が滲む。


「いつ見てもこの親子愛は笑えるな。息子を避けて警戒していた父親が、こういう時に限って息子を突き放せない。残念だが、時間切れだ。仲良く次のループに行くんだな」

「ちち、うえ、、頼……」


ヴァニタスに嵌められた首輪が光を放つ。


爆音。

爆風。


前世の死に際と同じ。


俺は爆風に吹き飛ばされながら、マチルダを守るように抱き締めた。


黒須 晶仁。

頼む。

もし俺の、ユスティートの記憶を持っているのなら。


マチルダを、彼女を守ってくれ。


マチルダ……。

もし、また会えたら、今度こそ、君と……。







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