02 宿命の檻
ユスティート様とセオドア陛下も井戸に降り、メモリア様の青い光を頼りに地下通路を進んだ。
やがて、開けた場所に出た。
地下水脈の水が溜まってできた美しい湖がある。
そして、その湖畔には魔法陣が刻まれており、眩い光を放っている。
「この魔法陣の上に乗ればラスティル城の俺の私室に転移できる。急げ」
セオドア陛下の言葉に、私とユスティート様、メモリア様とキョウは魔法陣の上に乗る。
途端に、眩い光に包まれた。
*
【夢/マチルダ・ピンコット】
ティアニー家の庭園でアルビオンとスヴェン様が事切れていた。
シルヴェスターさんが逃げて、ヴァニタス様が追う。
その光景を嘲笑うように見ながら、スピルスさんはアルビオンの亡骸を引き摺っていく。
先程私たちが通過してきたばかりのあの井戸に。
スピルスさんはアルビオンの亡骸を井戸に落とすと、自身は手摺を使って井戸を降りた。
ただでさえボロボロだったのに、容赦なく落とされて、アルビオンの亡骸は見るも無惨な状態だった。
その亡骸を、スピルスさんは引き摺ってゆく。
私たちの通った道を通り、あの美しい地下の湖へと。
スピルスさんはアルビオンの亡骸を湖に落として自分も湖に入る。
そしてナイフを振り上げて、何度も何度もアルビオンの亡骸へと振り下ろす。
アルビオンの亡骸から血がどんどん溢れて、湖が赤く染まってゆく。
「思い出した……」
スピルスさんが笑う。
「俺は何度も何度もこの惨劇を繰り返している。その全ての記憶を思い出した」
記憶だけじゃない。
スピルスさんの、ただでさえ膨大な魔力量が更に増えていく。
「これがアリスの民の血……お前が現れるのを待った甲斐があったよアルビオン。お前はもう聞こえていないだろうがな」
スピルスさんが笑う。
心底楽しそうに笑う。
「ヴァニタスには『隷属の輪』を嵌めた。シルヴェスター・アッシュフィールドは問題なく始末できるだろう。ヴァニタスにアリスの民の血を浴びせてやれないのは残念だが……」
スピルスさんの笑いは止まらない。
「記憶と共に魔力量も上昇してゆく。そして……スヴェン・マードックが死んだ」
笑いを止めたスピルスさんが禍々しく唇を歪める。
「やがてユスティートという疑似人格は消え、黒須 晶仁が目覚めるだろう。待っていた。待っていた……この時を」
スピルスさんが再び高笑いを始めた。
その邪悪な笑い声は地下の湖に反響する。
スピルスさん……。
貴方は誰?
スピルスさんの前世の貴方は誰?
何が貴方をそんな風に歪めてしまったの?
どうしたら、貴方を救えるの?
*
【ラスティル城/マチルダ・ピンコット】
「マチルダちゃん、大丈夫?」
女性の声が聞こえた。
この声は……。
「ディアドラ様」
「良かった……ぼんやりしていたから、心配になって」
そう言って微笑んだディアドラ様は、セオドア陛下の前に進むと、跪いた。
「セオドア陛下、申し訳ございません。我が夫、スヴェンが勝手な真似を……」
「いや、制止できなかった俺こそ君に申し訳ないことをした。スピルス・リッジウェイを制圧し、子供たちを連れて無事ここまで移動してきてくれるといいのだが……」
その時だった。
「そん、な……」
メモリア様の声だった。
皆がメモリア様を見る。
メモリア様の顔が、身体が、崩れ始めていた。
「湖に、亡骸が……聖なる湖が血で穢れ、私の、湖が……」
メモリア様の顔と身体は溶けるように崩壊してゆく。
「湖が、穢れては、私は、保てな……消え…………」
「メモリア!?」
キョウが叫ぶ。
「キョウ、マチルダちゃんを守……そして、いい加減、素直に……なりな……さ…………」
メモリア様は最後にそう言い残して、消えた。
皆がキョウを見る。
「聖地に、メモリアの湖に死体が投げ込まれた。スヴェン・マードックやアルビオン、シルヴェスター・アッシュフィールドがそんなことをするとは思えない。多分、スピルスかヴァニタスのどちらかだろう。聖なる湖が穢されれば、主であるメモリアはその存在を保てない……消滅するしかない」
「…………」
キョウの言葉に、皆……無言だ。
「そして、そんな余裕があるということは既に決着がついているということだ。スヴェン・マードックとアルビオン、シルヴェスター・アッシュフィールドの生存は諦めた方がいい」
「あンの馬鹿野郎!」
セオドア陛下が怒鳴りながら、壁を思いきり殴った。
それはスヴェン様への怒りなのか、ヴァニタス様への怒りなのか。
それとも無力な自分自身への怒りなのか。
拳に血が滲むまで、セオドア陛下は壁を殴り続けていた。




