05 異界流刑
【ラスティル城/フィニス・ティアニー】
「アルビオンがラスティル騎士学校の入学試験に合格した」
そう告げると、ヴァニタスは深い溜め息を吐いた。
「アイツはシルヴェスターを救いたいんだろうけどさ……自分がトリガーであることを少しは自覚しろっつーの」
古き昔、神の使いは人々に金色の叡知を授けた。
しかし、神に離反した悪魔たちは人々が叡知を与えられることが心底気に食わなかった。
人々は愚かなままでいい……白き髪に赤き瞳を持つ悪魔たちは、金色の叡知を授かった人々を次々に引き裂いた。
叡知を得た人々は、悪魔たちに抵抗した。
抵抗の果てに、悪魔を倒した者たちは、更なる叡知と神の恩恵なる強大な力を授かることができた。
この世界に伝わる伝説。
この伝説の真の意味は「アリスの民の血を浴びると魔力や魔術、固有魔法の威力が上がる。時に新たな能力に目覚める」というものだとヴァニタスは言う。
「実際、俺は大和……スピルスと共にアルビオンの血を浴びた。『リターナー』となったのはその後だ。多分俺が『リターナー』となったのは、アルビオンの血を浴びたが故のバグだと思う」
そしてヴァニタスは『リターナー』として、ラスティル王国滅亡のループを繰り返している。
その後、いつかのあのループでシェリルは俺を拒絶し、自分の中から前世である時成を引き摺り出し、弾いた。
シェリルの固有魔法は『俯瞰』だった。
シェリルとしての目線とは別に、全てを神の視点から見る俯瞰の目線を持っていた。
登場人物の目線と、読者の目線と言った方がわかりやすいだろうか。
あるいは、TRPGをプレイしたことがある者なら「PCの視点とPLの視点」と言った方がわかりやすいかもしれない。
しかし、ループを重ねれば重ねる程、彼女の視点は神寄りになっていった。
時成はそんな彼女に警鐘を鳴らし続けたが、ついには彼女はそんな時成すら煩わしくなってしまった。
引き摺り出された時成は消滅するしかなかった。
その時成を、俺とヴァニタスは共有した。
シェリルの固有魔法『俯瞰』も、元はと言えば前世である時成由来のもの。
その時成を共有した俺とヴァニタスも、固有魔法『俯瞰』の断片を手に入れることになった。
俺も『リターナー』となったのは、時成の共有が原因らしい。
「多分、今回も俺は『隷属の輪』を身につけることになると思う」
『隷属の輪』。
首に装着する爆弾であり、洗脳装置だ。
装着した者は強制的に主となった者に隷属することになる。
隷属した者にとって主の命令は絶対で、どう足掻いても逆らえない。
そして、万が一洗脳に反して主を裏切ろうとすれば、爆弾により文字通り首が飛ぶ。
「アルビオンやスヴェンを痛めつけて見せたとしても、大和は俺を信用しねぇだろう。俺が裏切らないよう『隷属の輪』を装着させる」
「…………」
「アルビオンと戦闘になった時点で俺は時成と一体化する。そうすれば時成を共有しているお前にも伝わる筈だ。何とかして親父たちと連絡を取って、大和が気づく前にラスティル城に転移させてくれ。俺が大和に隷属しちまったら、ティアニー家の安全は崩れる」
*
「ありがとう……フィニス」
「…………いや、俺は何も出来なかった」
ディアドラが落ち着くまで、待つことしか出来なかった。
そんな俺に、ディアドラが微笑む。
「いつの間にそんなに大きくなっちゃったのかな。昔は簡単に頭を撫でられたのに」
ディアドラにとって、俺はまだ弟のような存在なのだろう。
俺とノアとシェリルは、他の親世代に比べて随分年が下に離れていたから。
その時だった。
「…………っ!」
「フィニス!?」
ヴァニタスが時成と一体化した。
ティアニー家の安全が崩れる。
早く、陛下や子供たちに……。
「ディアドラさん、お願いがあります」
ディアドラ・マードック。
彼女の固有魔法は『伝達』。
「陛下に『伝達』を。まもなくティアニー家が襲撃されます。子供たちを連れて早くこちらに転移してきて欲しい……と」
もうすぐ、ティアニー家は戦場となる。




