03 異界流刑
【ティアニー家/セオドア】
「父上。スヴェン。それはつまり、僕の固有魔法はラスティル王国を滅ぼしかねないものであり、僕の前世は危険な人物であるということですね」
ダンッ!!
ユスティートの言葉に、苦々しげな表情でヴァニタスが拳をテーブルに叩きつけた。
ソルティードのノートを読んでいなかったら、突然のヴァニタスの行動の意味が理解できず、警戒していただろう。
ソルティードのノートによると、ヴァニタスの前世の名前は赤津 孝憲。
ペンネームは遠野 アウラ。
ユスティートの登場する作品『アンジャベル』の作者だ。
関本 夏希も作家だから理解できる。
作家にとって、例え悪役であっても登場人物はお腹を痛めて産んだ我が子と同じなのだ。
「ユスティートの前世が危険人物? そんな事を言ったら人間という存在は皆危険な存在だ。誰だって罪を犯す可能性はあるし、人を殺す可能性だってある。ほんの些細な、悪意の無い言動で既に誰かを自殺に追い込んでいる可能性だってある」
本業がカウンセラー。
おまけにそんな思想の元で『アンジャベル』を執筆したのであれば、ユスティートの前世……黒須 晶仁は、少なくとも作家・遠野アウラにとっては凶悪なだけの人物ではないのだろう。
すぐにいつもの胡散臭い笑顔に戻ったヴァニタスだが、頭を冷やしてくると言ってリビングから出て行ってしまった。
内心、まだ怒り心頭といったところか?
だが、確信したことがふたつある。
ヴァニタスは金目ではないが、赤津 孝憲だった前世を把握している。
そして、ユスティートの前世が自分の作品の登場人物であることも把握している。
ユスティートを愛するのは、腹を痛めて産んだ我が子の生まれ変わりだからだろう。
「ねぇ、セオドア。聞いてもいいかしら?」
精霊メモリアが手を上げた。
「もちろんです、レディ」
「『リッジウェイの惨劇』って結局何があったの?」
俺は当事者であるシルヴェスターを見た。
ヴァニタスの豹変に驚いていたシルヴェスターは、こちらの視線に気づくと真剣な眼差しで力強く頷いた。
当事者が了承しているのであれば、話しても良いだろう。
「『リッジウェイの惨劇』はスピルス・リッジウェイの妹、ライラ・リッジウェイが固有魔法を発現させたことで起こりました。彼女の固有魔法は『想起』。前世を強制的に思い出させるのです」
ライラが前世を思い出させたことで、その夜、リッジウェイの屋敷にいた者たちが殺し合いを始めた。
ライラが初めて固有魔法を発現させた夜。
つまり、『リッジウェイの惨劇』が起きた夜はリッジウェイ家前当主の葬儀の日の夜だった。
亡くなったリッジウェイ家の前当主は、スピルスとライラの母親であるコーネリア、そしてシルヴェスターの母親マドリーン、スヴェンの妻ディアドラの父親である。
コーネリアは末娘で、三姉妹はとても仲が良かったと記憶している。
その為、葬儀の後、娘のマドリーンとディアドラは孫に当たる子供たちを連れて、リッジウェイ家の離れに泊まっていたのだ。
騒ぎに気づいたマドリーンとディアドラが、屋敷から逃げ出してきたスピルスとライラを離れで保護した。
騒ぎの元凶が保護したライラだと知らず。
その時離れにいたのは、マドリーンと娘のウィリディシア、息子のシルヴェスター。
ディアドラと息子のジェラルド。
ライラは彼女らにも固有魔法『想起』を使った。
全員が前世を思い出し、離れが混乱する中。
ライラは一人姿を消した。
『リッジウェイの惨劇』後にフィニスが中心となって、ラスティル王国中を探したが、幼い少女の姿は無かった。
質問した精霊メモリアはもちろん、マチルダやユスティートも熱心に聞き入っているので、こちらも説明に力が入る。
だから気づかなかった。
キョウが姿を消したこと。
アルビオンとシルヴェスターがいつの間にか席を立ち、リビングから出て行ってしまったことに。




