02 異界流刑
【ティアニー家/ユスティート】
「もうひとつの質問です。玉座は防衛術式のコントロールを司ると陛下は仰いました。それは、逆も可能ですか? 玉座に座って防衛術式をコントロールすることで“確実にラスティル王国全域に範囲魔法の効果を拡大する”ことも可能ですか?」
マチルダのこの質問に父上は可能だと断言した。
続いてのスヴェンのこの言葉。
「ユスティート殿下。殿下は固有魔法を持たないのではありません。私の固有魔法『消失』で殿下の前世の記憶ごと、固有魔法を封じているのです。それ故私はオーブの所有者にはなれませんでした。代わりに選ばれたのが、ノアです」
ラスティル王国が滅びる映像をマチルダが何度も見ていることを僕は知っていた。
だが、彼女が見ていた映像は「僕がラスティル王国を滅ぼす映像」ではないだろうか?
隣に座ったマチルダがちらりと僕を見た。
僕の心を見透かしたのか、彼女は僕の手をギュッと握ってくれる。
そうだ。
彼女は言ってくれていたではないか。
「ラスティル王国の第3王子、ユスティート様の婚約者として、最後の最後まで国民を守り、ユスティート様を守る為に足掻くと答えました」
「私は、ユスティート様のどんな姿を目の当たりにしても、ユスティート様を愛し、傍らに居ることを誓います。私はマチルダ・ピンコット。ユスティート様の婚約者ですもの」
僕の最大の味方が、最愛の婚約者が隣にいる。
「父上。スヴェン。それはつまり、僕の固有魔法はラスティル王国を滅ぼしかねないものであり、僕の前世は危険な人物であるということですね」
ダンッ!!
苦々しそうな表情で拳をテーブルに叩きつけたのはヴァニタスだった。
活発ではあるが常に温厚である次兄ヴァニタスの、怒りに任せたかのような感情的な行動や表情は今まで見たことがない。
「お前の前世がどのような人物であったのか、お前の固有魔法がどのようなものなのか、今は説明できない。説明してしまったらスヴェンの施した封印が解けて、お前は前世に引き摺られるかもしれない」
父上もヴァニタスの行動には驚いたようだが、すぐに冷静さを取り戻した。
「だが、お前の固有魔法がラスティル王国を滅ぼしかねないことは事実だ」
「そして、滅ぼすと大予言者シェリルが予言をしている……そうですね、父上」
王宮での皆の態度や言動に、今更ながら納得した。
大予言者シェリルにラスティル王国を滅ぼすと予言されている第3王子。
恐れられて当然だろう。
「ユスティートの前世が危険人物? そんな事を言ったら人間という存在は皆危険な存在だ。誰だって罪を犯す可能性はあるし、人を殺す可能性だってある。ほんの些細な、悪意の無い言動で既に誰かを自殺に追い込んでいる可能性だってある」
「…………ヴァニタス」
だが、ヴァニタスは怒りが収まらないようだ。
まるで怨嗟の言葉でも吐くようなヴァニタスの声に、言葉に、流石に父上が彼を嗜めた。
「失礼しました。少し頭を冷やしてきます」
途端に兄は、いつもの穏やかな笑顔を浮かべると、颯爽とリビングから出て行った。
父上は僕よりも次兄ヴァニタスを忌避している。
必要があれば会話もするが、何処か他人行儀だ。
僕を忌避していたのは父上よりもむしろ長兄ソルティードで、父上は僕に父親として接しようと何度も試みていた。
しかし、父上のヴァニタスへの態度は何処か息子に対する態度とは違う。
ヴァニタス……彼は僕の前世の知り合いだったりするのだろうか?
いや、でもヴァニタスの瞳は金色ではない。
家族の中で最も近しい存在だと懐いていた兄が、急に遠くに感じられた。




