01 異界流刑
【ティアニー家/マチルダ・ピンコット】
「さながらこの世界は20世紀末~21世紀日本の配所……流刑地だな。異世界配所、というヤツか」
陛下の言葉に、私はキョウを見る。
人間の少年の姿でメモリア様の隣にいる彼に視線を向ける。
私もまた、前世で罪を犯したのだろうか?
それとも誰かに、罪を犯させたのだろうか?
キョウは私の視線に気づいたのか否か。
すぐにサッと視線を逸らす。
「話がズレたな。マチルダ嬢、君には辛い話だが、君の固有魔法『写実描写』は写実……つまり事実を君に見せるということでいいか?」
陛下の言葉に視線を陛下に戻し、はいと言って頷く。
「では、シェリルとスピルスが手を組んでいるのかは不明だが、現時点でナイジェルの所持していたアッシュフィールドのオーブと防衛術式のコントロールを司る玉座がシェリルの手に、アレクシスの所持していたピンコットのオーブとノアの所持していたマードックのオーブがスピルスの手に渡っているということだ」
防衛術式のコントロールを司る玉座。
ナイジェル様の所持していたアッシュフィールドのオーブ。
お父様の所持していたピンコットのオーブ。
ノア様の所持していたマードックのオーブ。
セオドア陛下が所持している王家のオーブ。
フィニス様が所持しているティアニーのオーブ。
……あれ?
「セオドア陛下、スヴェン様。ふたつ質問よろしいでしょうか?」
私は声を上げた。
「まずひとつ、オーブは当主が所持しているのではないのでしょうか? ピンコット家の当主は母です。父ではありません」
そう。
父はスヴェン様の兄で、マードック家の長男。
婿養子という形でピンコット家に入っているが、当主はあくまでも母アデルだ。
セオドア陛下は頷いた。
「マチルダ嬢、君の言う通りピンコット家の当主はアデルだ。ピンコットのオーブは当初アデルが所持する筈だった。だが、アレクシスが……君の父親が嫌がったんだよ。オーブを所持すれば命を狙われる可能性がある、自分はアデルを守りたいとな。そして、オーブの所持者に立候補した」
とてもお父様らしい理由だった。
お父様はお母様のことをとても大切にしていらっしゃったから……。
2人は私の理想の夫婦の形だった。
それなのに……。
「マードックに関しては、スヴェンがある事情で所持出来なかった。だから代わりにノアに所持してもらっていたのだが……」
「お父様も、ノア叔父様も、前世の記憶を持っていたのですか?」
「…………あぁ」
「『金目の病』を患うと前世を思い出すのであれば、生まれつき金目のお母様も……」
「前世の記憶を保持していた」
気づかなかった。
あんなに近くにいたお母様とお父様が、揃って前世の記憶を所持していたなんて。
「もうひとつの質問です。玉座は防衛術式のコントロールを司ると陛下は仰いました。それは、逆も可能ですか? 玉座に座って防衛術式をコントロールすることで“確実にラスティル王国全域に範囲魔法の効果を拡大する”ことも可能ですか?」
陛下とスヴェン様は顔を見合わせた。
暫しの間視線で会話した後……。
「…………可能だ」
陛下は断言した。
私はいつかの夢を思い出す。
「さっさと玉座に座れ、黒須 晶仁」
私を殺した、金目のスピルスさんがユスティート様に命じていた。
「そして固有魔法を発動しろ。私が憎いだろう?私ごとラスティル王国の人間を眠らせろ。安楽死だ。お前の完全犯罪を、この私に見せてくれ」
スピルスさんの命令に従い、操られるかのように玉座への階段を上ってゆくユスティート様。
いいえ、晶仁さん。
ユスティート様の固有魔法は人を死に至らしめるもの。
スピルスさんはユスティート様の固有魔法をラスティル王国全域に拡大することが目的だったのだろうか?
では、ユスティート様の固有魔法は?
ユスティート様は固有魔法を持たないのではなくて、封じられている?
誰に?
私の思考を読んだのだろうか?
陛下とスヴェン様が再度視線で会話を交わし、陛下が頷くとスヴェン様が口を開いた。
「ユスティート殿下。殿下は固有魔法を持たないのではありません。私の固有魔法『消失』で殿下の前世の記憶ごと、固有魔法を封じているのです。それ故私はオーブの所有者にはなれませんでした。代わりに選ばれたのが、ノアです」




