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02 輪廻転生



【ティアニー家/ユスティート】


マチルダは悲鳴を上げて飛び起きた。


「おとう……さま、が…………」


そしてまた、意識を失うように眠りについた。



「ヴァニタス兄さん、ありがとうございます」

「気にすんなって。マチルダちゃんは未来の義妹なんだから」


ヴァニタスと共にマチルダを客室に運んだ。

マチルダの見た夢は恐らく……。


「ピンコット邸が襲われた夢でも見たのかもしれない」

「…………」


ヴァニタスは無表情になって押し黙る。


「確認に……行けないだろうか?」

「…………誰が?」

「僕が」


ヴァニタスは溜め息を吐いた。


「ユスティート。理解しているとは思うが、俺に王位継承権はない」


ヴァニタスはティアニー家の養子となり、子供のいないフィニスの後継者となり、やがてティアニー家の当主となることが決まっている。


「兄上の次に王位継承権があるのはお前だ、ユスティート。そのお前が身を危険に曝すなんて……」

「マチルダは僕の婚約者で、アレクシス氏は未来の僕の義父だ! 無視なんて出来ない!」


黙って聞いていたヴァニタスは、ふっと笑みを浮かべた。


「キョウ、聞いてるんだろ?」


ヴァニタスの言葉に、14歳くらいの少年が姿を表す。


「ユスティートに同行してくれないか? 父上とスヴェンが話し込んでいるうちに」

「俺がマチルダの婚約者を律儀に守るとでも?」

「守るよ、お前は。誰よりもマチルダの幸せを願っているお前は」


キョウはハァーッと大きな溜め息を吐いた。


「父親に似て厄介なのか別の要因があるのか……まぁいい、乗れよ」


キョウは水妖ケルピーの姿になると、自分の背に乗るようユスティートを促す。


「…………え?」

「さっさと乗れ。乗らないなら置いていく」

「あ! ちょっと! 待って!」


慌ててキョウの背に乗ると、ヴァニタスが窓を開けていた。


「落ちて死んでも責任取らねぇぞ。しっかり掴まってろ」


キョウはマチルダの客室で助走をつけると、ふわりと窓の外に飛び出した。


「う……浮いてる…………」

「当たり前だ。俺はただの馬じゃない。水妖ケルピーだ」


キョウは陸の上を駆けるように空中を駆ける。

僕は落ちないように必死に彼にしがみつく。


やがて、パチッパチッと火の粉が爆ぜる嫌な音が聞こえてきた。


「顔を上げろ。ピンコット邸だ」


ピンコット邸は燃えていた。

業火に包まれ、燃えていた。


「流石の俺でもこの炎の中には侵入できねぇぞ。蒸発しちまう」


確かに、これは無理だろう。

つまり、アレクシス氏は…………。


「戻るか?」

「うん」


また、キョウの背にしがみつく。


「マチルダに、どう伝えたらいいんだろう」


ポツリと呟く。

返事を期待したわけではなかった。


「そのまま伝えればいい。マチルダはそんなに弱くない」


キョウはキッパリと言い切る。


「ショックは受けるだろうが、お前はマチルダの傍にいるんだろ。お前の支えがあれば、あの子は再び立ち上がることができる」


キョウの言葉は、正直意外だった。


「君……マチルダのことが好きなんじゃなかったの?」


キョウの表情は見えない。

けれど、少し笑ったような気がした。


「愛してる。でも、今マチルダが心の底から愛しているのはお前だ、ユスティート。ならば俺は、あの子の幸せを優先する」


まぁ、お前があの子を傷つけたら躊躇なくかっ拐うがな……と言うキョウに、僕も笑う。


「僕もマチルダを愛してる。絶対に幸せにする」


その後のキョウは無言だった。

何かを考えているのだろうか?


やがて、ティアニー家に着く直前……。


「だったら運命に抗え、諦めるな。例え運命に呑まれたとしても、あの子の前で無様な姿は見せるな」


キョウは独り言のように、小さく呟いた。

僕は何も返せなかった。

彼の言葉は、何処か諦めか絶望が混じっているように聞こえたからだ。




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