02 輪廻転生
【ティアニー家/ユスティート】
マチルダは悲鳴を上げて飛び起きた。
「おとう……さま、が…………」
そしてまた、意識を失うように眠りについた。
*
「ヴァニタス兄さん、ありがとうございます」
「気にすんなって。マチルダちゃんは未来の義妹なんだから」
ヴァニタスと共にマチルダを客室に運んだ。
マチルダの見た夢は恐らく……。
「ピンコット邸が襲われた夢でも見たのかもしれない」
「…………」
ヴァニタスは無表情になって押し黙る。
「確認に……行けないだろうか?」
「…………誰が?」
「僕が」
ヴァニタスは溜め息を吐いた。
「ユスティート。理解しているとは思うが、俺に王位継承権はない」
ヴァニタスはティアニー家の養子となり、子供のいないフィニスの後継者となり、やがてティアニー家の当主となることが決まっている。
「兄上の次に王位継承権があるのはお前だ、ユスティート。そのお前が身を危険に曝すなんて……」
「マチルダは僕の婚約者で、アレクシス氏は未来の僕の義父だ! 無視なんて出来ない!」
黙って聞いていたヴァニタスは、ふっと笑みを浮かべた。
「キョウ、聞いてるんだろ?」
ヴァニタスの言葉に、14歳くらいの少年が姿を表す。
「ユスティートに同行してくれないか? 父上とスヴェンが話し込んでいるうちに」
「俺がマチルダの婚約者を律儀に守るとでも?」
「守るよ、お前は。誰よりもマチルダの幸せを願っているお前は」
キョウはハァーッと大きな溜め息を吐いた。
「父親に似て厄介なのか別の要因があるのか……まぁいい、乗れよ」
キョウは水妖ケルピーの姿になると、自分の背に乗るようユスティートを促す。
「…………え?」
「さっさと乗れ。乗らないなら置いていく」
「あ! ちょっと! 待って!」
慌ててキョウの背に乗ると、ヴァニタスが窓を開けていた。
「落ちて死んでも責任取らねぇぞ。しっかり掴まってろ」
キョウはマチルダの客室で助走をつけると、ふわりと窓の外に飛び出した。
「う……浮いてる…………」
「当たり前だ。俺はただの馬じゃない。水妖ケルピーだ」
キョウは陸の上を駆けるように空中を駆ける。
僕は落ちないように必死に彼にしがみつく。
やがて、パチッパチッと火の粉が爆ぜる嫌な音が聞こえてきた。
「顔を上げろ。ピンコット邸だ」
ピンコット邸は燃えていた。
業火に包まれ、燃えていた。
「流石の俺でもこの炎の中には侵入できねぇぞ。蒸発しちまう」
確かに、これは無理だろう。
つまり、アレクシス氏は…………。
「戻るか?」
「うん」
また、キョウの背にしがみつく。
「マチルダに、どう伝えたらいいんだろう」
ポツリと呟く。
返事を期待したわけではなかった。
「そのまま伝えればいい。マチルダはそんなに弱くない」
キョウはキッパリと言い切る。
「ショックは受けるだろうが、お前はマチルダの傍にいるんだろ。お前の支えがあれば、あの子は再び立ち上がることができる」
キョウの言葉は、正直意外だった。
「君……マチルダのことが好きなんじゃなかったの?」
キョウの表情は見えない。
けれど、少し笑ったような気がした。
「愛してる。でも、今マチルダが心の底から愛しているのはお前だ、ユスティート。ならば俺は、あの子の幸せを優先する」
まぁ、お前があの子を傷つけたら躊躇なくかっ拐うがな……と言うキョウに、僕も笑う。
「僕もマチルダを愛してる。絶対に幸せにする」
その後のキョウは無言だった。
何かを考えているのだろうか?
やがて、ティアニー家に着く直前……。
「だったら運命に抗え、諦めるな。例え運命に呑まれたとしても、あの子の前で無様な姿は見せるな」
キョウは独り言のように、小さく呟いた。
僕は何も返せなかった。
彼の言葉は、何処か諦めか絶望が混じっているように聞こえたからだ。




