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01 輪廻転生


【夢/マチルダ・ピンコット】


「リヴェリア、できたわ」


今の彼女からは想像もできない、快活で楽しげな表情のシェリル様がいた。

ティアニー家の庭の花畑。

シェリル様が花畑の花で花冠を作って、小さな女の子に被せた。


「素敵だ、リヴェリア。花の精霊のようだ」


フィニス様がシェリル様の肩を抱きながら、女の子の頬を撫でる。

女の子は満面の笑みでこう言った。


「お母様、お父様。大好き。みんなは怖いって言うけれど、このティアニーのお屋敷も、お母様もお父様も、私は大好き」


女の子の言葉に、シェリル様が笑う。

フィニス様も笑う。

シェリル様の肩を抱くフィニス様の手には、明らかにティアニー家には咲いていない白い花束が。

そして、フィニス様の隣には、まるで幽霊のような幼い男の子がいた。



次の場面では若いシェリル様が、けれど、いつもの無表情になっていた。


「貴様はもう必要ない」


若いシェリル様は冷たくそう告げると、自身の中から半透明の男性を引き摺り出した。

男性は驚いている。


「貴様もだ、フィニス。私に婚約者など必要ない。私は一人でレオノーラの子を守る」


そんな男性に、そしてやはり若いフィニス様に見向きもしないで、シェリル様はティアニーの屋敷を立ち去ろうとする。


「リヴェリアも、要らないのか?」


フィニス様の呟きに、シェリル様が無表情のまま振り向いた。


「必要ない」


そして何事も無かったように立ち去った。


半透明の男性は消えかけていた。


「フィニス! いや、松岸さん!」


幼いヴァニタス様だった。


「今此処に存在する時成さんと、自分の前世。どちらが大切ですか?」

「勿論、彼だ」

「だったら協力してください……いや、共犯者になってくれ」

「共犯者?」


まだ2~3歳くらいにも見える幼いヴァニタス様がフィニス様に駆け寄った。

フィニス様がヴァニタス様の背丈に合わせてしゃがむと、ヴァニタス様はフィニス様に耳打ちをする。


「彼らは前世のあなたのトラウマ記憶であり、そしてもう一人のあなた自身です。しかし、この世界においては、あなたの……フィニス・ティアニーの固有魔法でもあります」


ヴァニタス様の言葉に、フィニス様は傍らの幽霊のような男の子と、花束を見る。

整った容姿の黒髪黒目の男の子は、どこかフィニス様に似た表情で微笑んだ。


「俺の固有魔法と掛け合わせることで、時成さんの消滅は阻止できます。けれど、その少年と花束は消えます」


フィニス様はもう一度、男の子を見る。

男の子はそれでも良いとでも言うように、頷いて笑った。


「そして、あなたは俺と同じ『リターナー』となります」

「『リターナー』」

「えぇ、シェリル・ティアニー……このループではシェリル・マードックのままですが、彼女も『リターナー』であるから壊れました。貴方もそうなる可能性があります」


幼児とは思えない言動のヴァニタス様に、フィニス様は少し考え込むと……頷いた。


「それでもいい。共犯者になろう、ヴァニタス。そして君の同行者に」


幼いヴァニタス様は頷くと、歌を歌い始める。


それは不思議な光景だった。

まだ声変わりしていない、ヴァニタス様の高く美しい歌声により、男性と花束、そして男の子がひとつになる。


ヴァニタス様が歌い終わった時、フィニス様の傍らには花束も男の子も存在せず、半透明の男性も消えていた。


そして、一匹の黒い犬がいた。


「松岸さん。あなたの怪異を使って、彼の身体を作りました。人型に出来なかったのは俺の力不足です」

「彼が……時成 秀治なのか?」

「…………えぇ」


ヴァニタス様の顔が暗い。


「ベースは松岸さんの怪異……フィニス・ティアニーの固有魔法の一部ですが、同時に彼は俺の固有魔法『領域』で作成した、俺の眷属です。そして時成さん自身はシェリル・マードックの前世でもある……意味は、わかりますね」

「俺も、君と同じ『リターナー』となった。前世と同様にループ記憶も引き継ぐ。そして恐らく、シェリルの前世である彼も……」


フィニス様が黒い犬を見る。


「時成さんの許可を確認しなかったのもまた、俺の落ち度です。申し訳ありませんでした」


ヴァニタス様が俯くと、黒い犬はヴァニタス様にすり寄った。

ヴァニタス様は自分と同じくらいの大きさの黒い犬の行動に困惑の表情を見せる。


「彼は既に同意しているようだ、君の長い旅に同行するのを。勿論俺も」


フィニス様は微笑むと、ティアニー邸の庭の花畑を見て悲しげな表情を浮かべた。


その場所はシェリル様と、リヴェリアと呼ばれていた女の子が花冠を作っていた場所だった。


「ヴァニタス、君は絶対に壊させない。シェリルもこれ以上壊させやしない。俺が守る……絶対に」



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