05 四分五裂
【ラスティル城内/ディアドラ・マードック】
私は走った。
隆斗くんと同じ制服を着た男子生徒が2人、楽しそうに笑みすら浮かべながら追ってくる。
捕まったらどうなるか……簡単に想像できた。
嫌だ。
嫌だ。
助けて、隆斗くん。
無我夢中で逃げていた私は、思わず……。
遮断機が降りた踏み切りへと侵入し、轟音でやっと状況を把握した時は既に遅く……。
隆斗くん、ごめんね。
君の孤独を癒してあげられなかったよ。
あの2人はきっと、私は自殺したと言い張るんだろうね。
私が思い悩んでいたと勘違いした隆斗くんは、きっと苦しむ。
君を余計に苦しませてしまうね。
ごめん、ごめんね……。
*
「ディアドラ! しっかりしなさい!」
姉に頬を叩かれて意識を取り戻した。
「そうだ……今の私は守屋 綾乃じゃない。ディアドラ・マードックだ」
「上等。それでこそ私の妹よ」
姉、マドリーンは満足そうに微笑む。
「私は助けを呼んでくるわ。それまで私の大切な子供たちを、ウィリディシアとシルヴェスターを守って」
姉はそう口にすると真っ白な猫の姿になった。
…………猫!?
姉の固有魔法は『案内・誘導』だった。
猫化する固有魔法なんて持っていなかった筈。
それなのに、猫となった姉は、颯爽とリッジウェイ家の離れの窓から外へと飛び出して行った。
後から聞いた話によると、姉の前世は猫だったらしい。
キリエという名の白猫で、薬剤師の女性に飼われていたが、彼女の死後は知人男性が里親となり、彼の元で天寿を全うしたという。
『リッジウェイの惨劇』で前世を思い出して以降、姉はもうひとつの固有魔法『獣化』を手に入れた。
『獣化』と言っても猫限定だ。
そして姉はあまりその固有魔法を使いたがらなかった。
特に、ナイジェル様とウィリディシアちゃんの前では。
*
夫とセオドア陛下が転移した後、私は仕掛けを作動させてセオドア陛下の私室に戻り、廊下へと出た。
そこには……。
「姉……さん?」
ボロボロの白い猫が転がっていた。
私は慌てて猫を抱き抱え、セオドア様の自室に戻る。
鍵を掛けて、白い猫へと必死に呼び掛けた。
「姉さん! 姉さん、起きて!」
ピクリ。
白い猫が身じろぎすると、人間の女性の姿へと変わる。
「姉さん!!」
「ディアドラ、良かった……無事だったのね」
姉はどう見ても無事じゃない。
今会話出来ているのが奇跡だ。
ピンコット家に駆け込んでも間に合わない。
「ディアドラ、よく聞いて。ナイジェルとアデルが死んだわ」
私は息を呑む。
「シェリルは玉座を手に入れた。ナイジェルの、アッシュフィールドのオーブもあの子の手の中……彼も陛下と一緒に逃がすべきだったわね」
オーブがシェリルの手に渡るとわかっていても、ナイジェル様は姉を置いて逃げることはないだろう。
その言葉を、私は飲み込む。
「ディアドラ、お願いがあるの」
私の涙が姉の頬を濡らす。
「もし、ウィリディシアに……樹理に会ったら、キリエが謝っていたと」
「…………」
「ナイジェルを……式睦を奪ってごめんね……って」
姉さんが私の涙を拭う。
「貴女にも……ごめんなさい、ディアドラ。コーネリアが逝ってしまったから……貴女を、ひとりには…………」
「姉さん!!」
姉さん。
私。
妹のコーネリア。
仲の良い三姉妹だったと思う。
姉がアッシュフィールド家へ、私がマードック家に嫁いで、コーネリアはリッジウェイ家に残り、『始まりの四家』とは別の貴族の子息を婿養子に迎えた。
『リッジウェイの惨劇』でコーネリアを亡くし、姉は私が寂しくないように、度々城まで足を運んで様子を見に来てくれていた。
大好きな、姉だった。
「姉……さん…………」
涙を拭ってくれていた姉さんの手がパタリと落ち……。
「嫌だよ……姉さん、、」
動かなく、なった。
「姉さん、逝かないで…………」
涙が止まらない。
私はフィニスが傍らに立っていることにも気づかずに、暫くの間姉の身体を抱き締めて泣いていた。




