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05 四分五裂



【ラスティル城内/ディアドラ・マードック】


私は走った。

隆斗くんと同じ制服を着た男子生徒が2人、楽しそうに笑みすら浮かべながら追ってくる。


捕まったらどうなるか……簡単に想像できた。


嫌だ。

嫌だ。

助けて、隆斗くん。


無我夢中で逃げていた私は、思わず……。


遮断機が降りた踏み切りへと侵入し、轟音でやっと状況を把握した時は既に遅く……。


隆斗くん、ごめんね。

君の孤独を癒してあげられなかったよ。

あの2人はきっと、私は自殺したと言い張るんだろうね。

私が思い悩んでいたと勘違いした隆斗くんは、きっと苦しむ。

君を余計に苦しませてしまうね。

ごめん、ごめんね……。



「ディアドラ! しっかりしなさい!」


姉に頬を叩かれて意識を取り戻した。


「そうだ……今の私は守屋 綾乃じゃない。ディアドラ・マードックだ」

「上等。それでこそ私の妹よ」


姉、マドリーンは満足そうに微笑む。


「私は助けを呼んでくるわ。それまで私の大切な子供たちを、ウィリディシアとシルヴェスターを守って」


姉はそう口にすると真っ白な猫の姿になった。

…………猫!?


姉の固有魔法は『案内・誘導』だった。

猫化する固有魔法なんて持っていなかった筈。


それなのに、猫となった姉は、颯爽とリッジウェイ家の離れの窓から外へと飛び出して行った。


後から聞いた話によると、姉の前世は猫だったらしい。

キリエという名の白猫で、薬剤師の女性に飼われていたが、彼女の死後は知人男性が里親となり、彼の元で天寿を全うしたという。


『リッジウェイの惨劇』で前世を思い出して以降、姉はもうひとつの固有魔法『獣化』を手に入れた。

『獣化』と言っても猫限定だ。

そして姉はあまりその固有魔法を使いたがらなかった。

特に、ナイジェル様とウィリディシアちゃんの前では。



夫とセオドア陛下が転移した後、私は仕掛けを作動させてセオドア陛下の私室に戻り、廊下へと出た。


そこには……。


「姉……さん?」


ボロボロの白い猫が転がっていた。

私は慌てて猫を抱き抱え、セオドア様の自室に戻る。

鍵を掛けて、白い猫へと必死に呼び掛けた。


「姉さん! 姉さん、起きて!」


ピクリ。

白い猫が身じろぎすると、人間の女性の姿へと変わる。


「姉さん!!」

「ディアドラ、良かった……無事だったのね」


姉はどう見ても無事じゃない。

今会話出来ているのが奇跡だ。

ピンコット家に駆け込んでも間に合わない。


「ディアドラ、よく聞いて。ナイジェルとアデルが死んだわ」


私は息を呑む。


「シェリルは玉座を手に入れた。ナイジェルの、アッシュフィールドのオーブもあの子の手の中……彼も陛下と一緒に逃がすべきだったわね」


オーブがシェリルの手に渡るとわかっていても、ナイジェル様は姉を置いて逃げることはないだろう。

その言葉を、私は飲み込む。


「ディアドラ、お願いがあるの」


私の涙が姉の頬を濡らす。


「もし、ウィリディシアに……樹理に会ったら、キリエが謝っていたと」

「…………」

「ナイジェルを……式睦を奪ってごめんね……って」


姉さんが私の涙を拭う。


「貴女にも……ごめんなさい、ディアドラ。コーネリアが逝ってしまったから……貴女を、ひとりには…………」

「姉さん!!」


姉さん。

私。

妹のコーネリア。


仲の良い三姉妹だったと思う。


姉がアッシュフィールド家へ、私がマードック家に嫁いで、コーネリアはリッジウェイ家に残り、『始まりの四家』とは別の貴族の子息を婿養子に迎えた。


『リッジウェイの惨劇』でコーネリアを亡くし、姉は私が寂しくないように、度々城まで足を運んで様子を見に来てくれていた。

大好きな、姉だった。


「姉……さん…………」


涙を拭ってくれていた姉さんの手がパタリと落ち……。


「嫌だよ……姉さん、、」


動かなく、なった。


「姉さん、逝かないで…………」


涙が止まらない。

私はフィニスが傍らに立っていることにも気づかずに、暫くの間姉の身体を抱き締めて泣いていた。






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