04 四分五裂
【ティアニー家/セオドア】
「そうだ。森野 響哉だ。だがデカい声で騒ぐな関本 夏希。俺には俺が森野 響哉だと知られたくない相手がいる」
森野 響哉。
前世で時成が調べ、ノンフィクション小説としてその生涯を書き上げた中学生の少年。
だが、この違和感は何だろう?
少年と会話をしている感覚ではないのだ。
例えて言うなら、老人となった森野 響哉と会話しているような……。
「人間じゃないから……か」
「そうだな。寿命が長い水妖だからということにしておけ」
まるでこちらの言葉の意図を理解したかのように返される。
やはり、老獪な年長者の相手をしているような感覚に陥る。
いや、それよりも……。
「お前が森野 響哉だと知られたくない相手……吉住 優の生まれ変わりでもいるのか?」
森野 響哉は動じない。
「あぁ。誰が吉住 優なのか、お前はすぐに知るだろう。関本 夏希……いや、セオドア。ソルティードの検証ノートを子供たちに見せるな。手渡されたらお前が所持しろ」
どういう意味だと問い返す前に、階下が慌ただしくなる。
扉を開けると黒い犬が階下へと下りていき、代わりにヴァニタスが上がってくる。
「父上、ピンコット邸からマチルダちゃんとアッシュフィールド家のシルヴェスターくん、ピンコット邸に居候しているアリスの民の少年が訪れました」
「アッシュフィールド家のシルヴェスター? どういうことだ?」
「ウィリディシアさんから兄上のノートを託され、大怪我を負った状態でピンコット邸に転がり込んだそうです。怪我自体はアレクシス氏に治癒してもらったそうですが……」
“ソルティードの検証ノート”
振り返ると、森野 響哉は既に部屋にはいない。
「アレクシス氏にはノートをフィニスに渡せと言われたそうですが……」
フィニスはディアドラの応援の為に城へ向かった。
「ソルティードのノートだろう。俺が受け取ろう」
ヴァニタスと共に階下に降りる。
階下には既に下りてきていたスヴェンと、ユスティート。
そしてユスティートの婚約者マチルダと、ナイジェルの息子シルヴェスターと、白い髪に赤い瞳の少年……。
「セオドア陛下、ソルティード殿下のノートだそうです」
「中を見たのか?」
「いえ」
スヴェンから手渡されたノートをパラパラと確認する。
これは……確かに、見せられない。
「少し、スヴェンと話がしたい。ヴァニタス、ユスティート、彼らの相手をしていてくれ」
*
【夢/マチルダ・ピンコット】
火の海となっているピンコット邸。
ユズキさんがスライムの姿となり、蒸発して消えた。
傍らにはいつかの夢の私のように風の刃で切り刻まれたお父様。
金目のスピルスさんが笑いながら、お父様の亡骸へと手を翳す。
ピンコット家の家紋である鳥の紋章が刻まれた赤いオーブが、お父様の中から現れ、スピルスさんの手の中に収まった。
ノイズ。
森の中……だろうか?
薄暗い場所で、女性のように美しい男性が、切り刻まれて倒れている。
あれは、お父様のもう一人の弟の……ノア叔父様?
やはりスピルスさんが現れて、ノア叔父様の亡骸へと手を伸ばす。
マードック家の家紋である竜が刻まれた青いオーブが現れ、スピルスさんの手の中に……。
「これで、2つ目だ」
スピルスさんが、また、笑って……。
*
私は悲鳴を上げて飛び起きた。
ユスティート様が私の顔を覗き込む。
「おとう……さま、が…………」
涙が溢れて止まらない。
これは、いつもの夢なの?
それとも、今現実で起こっていること?




