02 四分五裂
【ティアニー家/セオドア】
妻レオノーラとフィニス、そしてソルティードが生まれつきの金目であったことで、俺は仮説を立てた。
“生まれつきの金目は、生まれつき前世の記憶を持つ”
“前世で物語の登場人物だった者が、この世界では生まれつきの金目となる”
そして、ユスティートへのシェリルの予言。
「ユスティート様は、必ずこの国を、ラスティル王国を滅ぼします」
予言を聞いた俺たちは対策を練った。
固有魔法の効果範囲を狭める防衛術式。
第2の防衛術式とも言える固有魔法を持つヴァニタスを、聖地の上に建つティアニー邸に配置する。
そして、ユスティートの記憶を消す。
ユスティートはソルティードと同じく生まれつきの金目だった。
俺たちはスヴェンの固有魔法『消失』を使って、ユスティートが生まれ持った前世の記憶を存在しなかったことにした。
その結果、ユスティートは藍色の瞳を持つごく普通の少年となった。
固有魔法を発現していないのが異常と言えば異常だ。
だが、漫画や小説をドラマやアニメ用に再構築する脚本家として名が売れた関本 夏希が、この世界では『再構築』の固有魔法を持つセオドアとして生まれている。
固有魔法には前世が深く関連していると考えた方が良い。
前世の記憶を封じてしまえば、固有魔法も封じられてもおかしくはないだろう。
「父上」
笑顔を浮かべるヴァニタスと、彼の背後で無言で礼をするユスティート。
「父上とスヴェンさんの部屋の準備ができていますので、ご案内しますね。ユスティートはここでゆっくりしてて」
ユスティートを落ち着かせ、俺とスヴェンを部屋に案内するヴァニタスの瞳は紫色。
『リッジウェイの惨劇』に巻き込まれたわけでもない。
第1の防衛術式構築に関わっているわけでもない。
本来は3人の王子の中で唯一前世の記憶を持たずに生まれ、前世を思い出さずに育っている筈のヴァニタスが、何故か最も大人びているように感じる。
ティアニー家で軟禁されることも、文句ひとつ言わずに受け入れた。
俺は正直、ユスティートよりヴァニタスの方が不気味だ。
ヴァニタスに案内された部屋に入ろうとすると、スルリと黒い犬が入ってきた。
「あ、こら」
「こいつはいいんだ。……俺の部屋に入ってきたからにはモフモフされるぜ、覚悟しろ」
「…………陛下」
「スヴェンさんの部屋は隣です。何か情報が入り次第、お声がけします」
ヴァニタスはそう説明すると、ユスティートの待つ階下へと下りて行った。
スヴェンと共に、念のため不審なものはないか確認する。
王宮より簡素な部屋ではあるが、不審なものはない。
最も、ティアニー家自体がヴァニタスの『領域』内だ。
此処に足を踏み入れた時点で、ヴァニタスの手のひらの上ではあるのだが。
「……ということでモフモフするぞ。お前元気だったか?」
調べ終わると、早速黒い犬を撫で始める。
スヴェンは溜め息を吐いていた。
黒い犬はされるがままだった。
「本当に時成に似てるよな、お前」
「トキナリ?」
「あー。いや、こっちの話」
時成 秀治。
前世での俺の後輩。
ジャーナリストでノンフィクション作家。
病弱で喘息持ちのくせに落ち着きのない俺は、たまに時成の調べものを手伝っていた。
時成からしたら迷惑だったかもしれない。
でも、俺は時成と駆け回るのが楽しかった。
「アイツも転生してきてたら面白いのにな」
そう上手くはいかないのが、輪廻転生というものらしい。




