03 日常崩壊
【ピンコット家/アルビオン】
俺の、この世界での名前はアルビオン。
90年代の日本で流行したドット絵RPG『アルビオンズ・プレッジ』の主人公だ。
アリスティア王国が滅んだ後、何とか生き延びた俺は、まずは戦いの基礎を学ぶ為にと、このラスティル王国を訪れる。
ラスティル騎士学校の卒業試験が『アルビオンズ・プレッジ』のチュートリアル。
戦闘の基礎、魔術の基礎などをプレイヤーは卒業試験で学び、晴れて卒業……チュートリアル終了でゲーム開始となる。
ゲーム開始直後のラスティル王国は至って平和だ。
だが、ゲーム中盤で滅びてしまう。
魔王と、魔王の寵愛を受ける美少女ライラ・リッジウェイによって。
ライラ・リッジウェイとは『リッジウェイの惨劇』の原因となった少女である。
ライラの魔力の暴発によりリッジウェイ家は壊滅し、一人生き残ったライラは魔王に保護される。
この魔王というのが、主人公アルビオンと同じ、白い髪と赤い瞳を持つアリスの民の生き残りなのだ。
しかし、俺がアルビオンとして転生したこの世界では、ラスティル騎士学校卒業までにラスティル王国が滅んでしまう。
何度繰り返しても、俺は無事にラスティル騎士学校を卒業できない。
入学直後にラスティル王国は滅んでしまい、俺も巻き込まれてしまう。
逃げようと考えたこともあった。
アイツがいなければ、ループを繰り返す中でアイツの存在に気づかなければ、俺は滅亡に巻き込まれるとわかっていながら、何度もラスティル王国に足を運ばないだろう。
シルヴェスター・アッシュフィールド。
前世の名前は乙村 直澄。
俺……天塚 隆斗が殺してしまった人物だ。
1998年10月、俺の恋人の守屋 綾乃が俺の通う全寮制男子校の軽音部のメンバー数人に殺された。
1998年12月末、冬休みに入って次々と生徒たちが帰省する中、俺は自身も在籍する軽音部のメンバーが帰省しないよう画策した。
1999年1月。
俺は復讐を開始した。
復讐の最後、俺は直澄を道連れにするつもりで彼の後頭部を殴打し、ガソリンを撒いて火を放った旧校舎に連れ込んだ。
意識を失っている直澄と旧校舎で死を待つ間に、軽音部のメンバーである朧月 ルキアが俺の携帯電話に電話をかけてきた。
ルキアは全ての謎を暴いた。
アニメの少年探偵たちも舌を巻く推理だった。
そして……。
直澄は綾乃殺害に関わってはいなかった。
直澄は無実だったのだ。
俺は直澄を旧校舎から出そうとしたが……もう遅い。
炎の中、直澄は俺に謝罪をした。
「僕がもっと隆斗の話をしっかり聞いていれば、隆斗はこんなことをしなくて済んだのに」
俺が部活仲間を殺したのも、俺の異変に気がつかず、俺の話を聞かなかった自分のせいだと直澄は言う。
こんな直澄が、人殺しに荷担する筈ないじゃないか。
後悔しても、もう遅い。
俺と直澄は焼死して、ゲーム『アルビオンズ・プレッジ』の世界に転生した。
俺の固有魔法は『復讐』。
前世から自身が見聞きした記憶を覚えているし、忘れることができない。
シルヴェスターの固有魔法は『傾聴』。
精霊や妖精、動物や魔物などの声を聞き、言葉を理解することができる。
シルヴェスターの固有魔法が『傾聴』なのは、直澄が死の直前に「もっと話をしっかり聞いていれば」と後悔したからだろう。
悪いのは復讐鬼と化した俺で、直澄は何も悪くないのに。
だから俺は、滅亡に巻き込まれるとわかっていながら、ラスティル王国へと足を運ぶ。
何度もシルヴェスターを救おうとして、後悔して、また巻き戻って、失敗して……。
固有魔法『復讐』は、俺が見聞きした範囲であれば、ループ記憶すらも保持したまま、転生できる。
だが何度繰り返しても、ラスティル王国は滅亡し、シルヴェスターは命を落とす。
今度こそ……。
にゅるっ。
ドアの隙間から、スライムが入ってくる。
スライムは俺の周りをピョンピョンと跳ね回った後、20代後半くらいの年齢の男性に変身した。
ファッション雑誌に乗ってそうなトップスに、ブラックジーンズ。
明らかに中世欧州を模したこの世界のファッションではない。
ただ、瞳だけが金色だった。
彼曰く、生前はちゃんと瞳の色も黒だったらしい。
彼の固有魔法は『変身』。
しかし、前世の自分の姿を模した時だけ、瞳が金色になってしまうと彼……柚希 颯志は言う。
「アルビオン、シルヴェスターくん落ち着いたよ」
「柚希……」
今度こそ、直澄……シルヴェスターだけでも救わなくては。




