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02 日常崩壊



【夢/マチルダ・ピンコット】


検証。


穂波(ほなみ) 玲音(れおん)はその薬を口にした。

死ぬと理解していながら、その薬を口にした。


検証。


街を賑わす連続怪死事件で使われている薬。

恐らくは、母の命を奪ったであろうその薬を、玲音はあえて飲み込む。


検証。


服薬した玲音は、死ぬまでの自身の体調、様子、経過を詳細にSNSの海に流す。


検証。


140文字に束ねては、流す。

また140文字に束ねては、流す。

まるで死の実況中継。


検証。


いつか、誰かの手に届くように。

命をかけた検証結果を瓶に詰め、インターネットの大海へと流す。


検証。


完全に眠りにつくまで。

指が動かなくなるまで。

脳が思考を放棄するまで。

心臓が鼓動を止めるまで。


玲音は薬を検証し、検証結果を140文字の瓶に詰め、海へと流し続ける。


検証、検証、検証、検証……。



【ピンコット家/マチルダ・ピンコット】


翌日。

ウィリディシア様の誕生日。

母アデルは夢と同じく、ラスティル城へと出掛けていた。


伝書鳩を飛ばすべきだろうか?

それとも私も城に行くべき?

迷っているうちに、使用人たちが駆け込んできた。


「アレクシス様! マチルダ様! アッシュフィールド家のシルヴェスター様が!」

「酷い火傷を負っています!」

「ご主人様に会いたいと……」


話を聞いたアルビオンが顔色を変えて駆けていく。

私と父アレクシスも、慌ててその後を追う。


「シルヴェスター! おい、シルヴェスター!」


アルビオンが叫ぶように声を荒げて、使用人に支えられたシルヴェスターさんの名前を呼ぶ。

あんなに冷静さを欠いたアルビオンの姿を見るのは初めてだ。

父はアルビオンを落ち着かせるように背中を叩くと、シルヴェスターさんをソファに寝かせるように指示した。

シルヴェスターさんが横たわると、彼の懐からモゾモゾと白いフクロウが現れる。


「レイちゃん!?」


レイは“ちゃん付けは不服だ”と言わんばかりに私を見た後、1冊のノートを横たわるシルヴェスターさんの上に落としてソファの背に止まった。

父はそのノートをパラパラと見て絶句した後、そのノートをソファに置いてシルヴェスターさんへと手を翳した。

柔らかくあたたかい光が、シルヴェスターさんを包む。

父の固有魔法『治癒』だ。


私も、アルビオンも、使用人も、固唾を飲んで見守った。

シルヴェスターさんの火傷が、綺麗に消えてゆく。


ピクリ。


シルヴェスターさんは身動ぎすると、ゆっくりと起き上がった。


「ありがとうございます」

「何があったんだい?」


シルヴェスターさんは何度か口を開きかけ、躊躇った後……こう言った。


「父と母の留守中、兄が……スピルスが僕と姉を襲いました。姉がひとりアッシュフィールドの屋敷に残りました。騎士見習いの僕は魔法戦には向かないから、これを持ってピンコット家へ逃げろと。アレクシス様に治療をしてもらえと」


シルヴェスターさんは父がソファに置いたノートを抱き締める。


「何が騎士見習いだ! 大切な人を、姉を、家族を、守れないのに! 今まで僕は騎士学校で何を学んできたんだ! アデル様の元で何を学んできたんだ!」


ノートを抱き締めながら、絞り出すような声で叫ぶシルヴェスターさん。

彼の肩にそっと止まるレイさん。

ソファに飛び乗り、シルヴェスターさんの膝の上に乗るアルビオンのスライム。

何も出来ない私と父とアルビオン。


しかし、再び駆け込んできた使用人たちが、無情にも複数の知らせを私たちに伝える。


「城でクーデターが起こりました! 首謀者は大予言者シェリル様!」

「アデル様が、宰相ナイジェル様と共にシェリル様に殺害されました!」

「セオドア陛下の生死は不明です!」

「マードック家のスヴェン様、アッシュフィールド家のマドリーン様、共に生死不明!」

「ソルティード殿下とジェラルド様はアッシュフィールド家に向かう途中、何者かの襲撃を受けたようです! お二人共に死亡!」

「アッシュフィールド家の屋敷には、使用人とウィリディシア様の遺体が!」


日常の崩壊。

口々に報告する使用人たちの言葉を聞いて、シルヴェスターさんが絶叫する。

アルビオンが慌ててシルヴェスターさんを抱き締める。

父も、泣き叫ぶシルヴェスターさんを落ち着かせるように、ずっと背中を撫でさすっていた。




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