01 日常崩壊
【夢/マチルダ・ピンコット】
「姉さん! 娘の……しかも未来の王妃の誕生日当日にこんなところで何やってるのよ!」
「娘で未来の王妃の誕生日当日に仕事ばかりしてるワーカーホリックな宰相を引き摺って帰るためよ。少しはアレクシス様を見習って欲しいわ」
「アレクはちょっと過保護なところもあるけれどね。私とアレクとマチルダもパーティーにお邪魔するわ」
ジェラルドさんのお母様で、宮廷魔術師長のディアドラ・マードック様。
ディアドラ様のお姉様で、ウィリディシア様のお母様のマドリーン・アッシュフィールド様。
そして私の母、アデル・ピンコット。
3人は和やかに話に花を咲かせている。
ディアドラ様もマドリーン様も娘の誕生日当日と言った。
この夢は明日起こる事実なのだろうか?
「ディアドラ様! マドリーン様! アデル様!」
兵士が血相を変えて駆けてくる。
「ソルティード様の馬車が何者かに襲撃され、ソルティード様は護衛のジェラルド様共々お亡くなりに……」
第一王子の死と、一人息子の死を知らされ、真っ青になった顔を両手で覆うディアドラ様。
よろけるディアドラ様を慌てて支えるマドリーン様。
「セオドア陛下には?」
「別の者が伝えに……」
母アデルがそう尋ねた途端、玉座の間で悲鳴が上がる。
ドレスの下から出した剣を握り締め、玉座の間へ向かって母は駆け出す。
ディアドラ様の部下の魔術師の女性に彼女を任せて、母を追うマドリーン様。
*
遅れて、ディアドラ様が玉座の間へ向かう。
玉座の間ではセオドア陛下、護衛のスヴェン・マードック様、宰相のナイジェル・アッシュフィールド様、そしてマドリーン様と母が1人の女性と対峙していた。
桜色の長い髪に桃色の瞳。
人形のように整った……けれど、全く動かない表情。
ラスティル王国の大予言者シェリル・マードック様が、母たちと対峙していた。
シェリル様は使用できる属性こそ少ないものの、魔力量ではディアドラ様や、ディアドラ様を凌駕すると言われているスピルス様をも圧倒している。
シェリル様は、魔力量だけで言えばラスティル王国随一だ。
恐らく4人がかりでも、シェリル様には敵わない。
「シェリル、ソルティード襲撃もお前が黒幕か?」
「どう思おうがお前の勝手だが……死にたくなければ玉座を明け渡せ、セオドア」
「お前……それはクーデターだぞ?」
「知ったことか。私は私のやり方で、最後まで抗う」
無数の氷の槍が、母たち目掛けて飛ぶ……が。
突き刺さる直前で炎の渦に飲まれた。
ディアドラ様だ。
「遅れて申し訳ございませんでした、陛下。ナイジェル様」
ディアドラ様の言葉にナイジェル様は頷くと、冷静に指示を出す。
「陛下の身の安全の確保が最優先だ。スヴェン、ディアドラ、陛下を安全な場所へ」
「ナイジェル! 俺に魔術師であるディアドラをつけたらシェリルに対抗できる奴がいなくなるだろうが!」
怒鳴る陛下に、ナイジェル様が怒鳴り返す。
「陛下の身の安全の確保が最優先と言ったでしょう! スヴェン、ディアドラ、陛下を守れ。息子と同じ同じ轍は踏まないように」
スヴェン様とディアドラ様はナイジェル様の言葉に頷くと、引き摺るようにセオドア陛下を連れて玉座の間から去った。
「ナイジェル、マドリーン、アデル。私と戦う気か? …………無駄なことを」
シェリル様が吐き捨てる。
「我々も負ける気はないさ。アッシュフィールド家へ……娘のところへ、大至急戻らなければならないからな」
ナイジェル様と母は剣を、マドリーン様は短剣を構える。
シェリル様は無表情のまま、再度、無数の氷の槍を作り出す。
「無能なお前たちは死ぬ。玉座は私が奪う。これは決定事項だ。ラスティル王国の終末まで私が仮初めの女王となる……お前たちに未来は覆せない」
冷徹に、シェリル様は言い放った。




