04 厄災前夜[後編]
炊き込みご飯。
根菜たっぷりの豚汁。
塩焼きの魚。
水菜と豆腐のサラダ。
フィニスとヴァニタスが作る料理は変わっている。
フィニス曰く、異国の料理らしい。
だが、美味しいし……何処か懐かしい。
「私の分も……何だか申し訳ないです」
そう、マチルダにも彼らの料理が振る舞われた。
「アデルとアレクシスには夕食を振る舞う旨、伝書鳩で知らせておいた」
「そうそう。だから安心して食べなよ、マチルダちゃん」
黒い髪に黒い軍服のような服。
金色の瞳。
威圧感を与える容姿に不釣り合いな優しい表情のフィニス。
僕と同じプラチナブロンドの髪を肩まで伸ばし、司祭服のような白いローブと赤いストラを纏うヴァニタス。
紫の瞳に、柔和だが何処かやんちゃ坊主っぽさが漂う表情。
正反対の印象の二人だが、関係は良好だ。
そして2人の傍らに佇む、トキという真っ黒な犬。
フィニスの調査にも時々同行するが故に、民からは『地獄の番犬』と呼ばれているトキ。
だが、実際の性格はとても大人しい。
ふっと、トキが顔を上げて僕を見た。
金色の瞳が、何処か悲しげなのは気のせいだろうか?
*
食事が終わって一息ついた頃、トキがヴァニタスのローブの裾をクイクイと噛んで引っ張った。
戸惑うようにフィニスを見るヴァニタスに、フィニスはコクリと頷いた。
ヴァニタスは食堂を出て行く。
「ユスティートとマチルダはリビングで寛いでいてくれ」
フィニスが微笑んで促す。
使用人のいないティアニー家では、食器の片付けもフィニスとヴァニタスが行う。
時折精霊や妖精が手伝っているが、2人が自ら行うことの方が多い。
僕とマチルダが立ち上がると……。
「ジェラルド、どうして……」
「手紙に会いたいって書いたのバニーちゃんじゃん」
臙脂色の短髪に同じ色の瞳を持つ、長身の青年が現れた。
マードック家現当主スヴェン・マードックの一人息子であり、次期国王である長兄ソルティードの護衛の役目を担うジェラルド・マードック。
「マティーちゃんはさっきぶり。ティトくんはかなりご無沙汰だっけ?」
ジェラルドは何故か僕たちを愛称で呼ぶ。
相手が王族である僕やヴァニタスでもお構い無しだ。
「ちょっとバニーちゃん借りるね。大丈夫大丈夫、如何わしいことはしないから」
「当たり前だろ馬鹿!」
「バニーちゃんの貴重なツッコミ。やっぱ離れててもソルトの弟だね。ツッコミのタイミングがソルトと同じ」
「そんな所で兄弟かどうかを確認しないでくれるか? ……少し俺の部屋で話をしてくる」
最後の言葉は恐らくフィニスと僕たちに向けてだろう。
ジェラルドを自室に連れてゆくヴァニタスの後ろを、トキが追う。
「…………賑やかになったな」
いつの間にか片付けを終えたらしいフィニスが、紅茶とお菓子を運んでリビングに現れた。
紅茶の数は4つ。
「私の分も持ってきてくれるなんて気が利くじゃない。流石フィニス」
「何年このティアニー家に住んでると思っている……メモリア」
いつの間にかリビングにいた、毛先が水飛沫のような水色の髪に、同じく水で編まれたようなドレスを纏う美しい女性。
無邪気に笑う彼女こそ、ティアニー家が守る聖地の主……精霊メモリアだった。




