03 厄災前夜[後編]
【ティアニー家/ユスティート】
マチルダを迎えに行くと、先にマチルダの話していた水妖のキョウが、僕に気づいた。
彼は馬の姿になると、マチルダの前からスッと消える。
「キョウと何の話をしていたの?」
「…………ユスティート様」
マチルダは美しい所作で丁寧に挨拶する。
そんな彼女を無言でティアニー家の庭園まで引っ張ると、ギュッと抱き締めた。
「ユスティート様……」
「何を、話していたの?」
我ながら醜い嫉妬心だと思う。
それとも、子供のような駄々だろうか?
マチルダはそんな見苦しい僕を、微笑みを浮かべて抱き締める。
「もし、明日ラスティル王国が滅びるなら私はどうするのかと、尋ねられました」
しかし、マチルダから返ってきた言葉は軽いものではなく……。
「ラスティル王国の第3王子、ユスティート様の婚約者として、最後の最後まで国民を守り、ユスティート様を守る為に足掻くと……私は、そう答えました」
自分が情けなくなった。
マチルダの肩口に額をトンと乗せると、マチルダはクスクスと笑って僕の背中を撫でる。
「私は、ユスティート様のどんな姿を目の当たりにしても、ユスティート様を愛し、傍らに居ることを誓います。私はマチルダ・ピンコット。ユスティート様の婚約者ですもの」
あぁ……彼女には敵わない。
「それよりも……彼の…………」
彼女はキョウが立ち去る直前の難しい表情に戻った。
彼女の固有魔法は『写実描写』。
前世や過去、未来などを垣間見るが、それは全て写実……事実をそのまま切り取った映像である。
そんな彼女が、ラスティル王国が滅びる映像を何度も見ていることを知っている。
「キョウの言葉が気になる? 明日ラスティル王国が滅びるんじゃないかって……」
マチルダはコクリと頷いた。
僕は再び彼女を抱き締め、彼女の柔らかな金色の髪を撫でる。
「フィニスに聞いてみよう。最近ラスティル王国で何か異変が起きていないか」
フィニスはラスティル王国の治安を守り維持する、ティアニー家の当主だ。
定期的にラスティル王国内を巡回している。
また、フィニスの固有魔法『看取』は、精霊や妖精、動物や魔物の声すらも見聞きできる他、死者の残留思念と言葉を交わすことができる。
精霊や妖精、動物や魔物、死者の残留思念の助力や協力を得ることも可能で、ラスティル王国内で事件があれば、必ず彼の耳に入る。
フィニスのこの、死者の残留思念とすら会話することが出来てしまう固有魔法もまた、彼が国民に恐れられ、避けられる要因のひとつなのだけれど。
フィニスもヴァニタスも、とても穏やかで優しい人間なのに……。




