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05 厄災前夜[前編]


【夢/マチルダ・ピンコット】



これは、誰の夢だろう?

あまり見たことのない人物たちの夢だった。



「孝憲はまた講義中に小説書いてたのか?」

「今度のは力作!」

「……学業を疎かにするのは感心しないけど」


3人の青年がいる。

快活な印象の花寺(はなでら) 朔夜(さくや)

柔和な印象の赤津(あかつ) 孝憲(たかのり)

冷静な印象の虎田(とらだ) 大和(やまと)


「俺、弁当あるから先に席取っとくな。お前ら学食だろ?」


孝憲という青年が抜けると、朔夜と大和の間には沈黙が落ちる。

仲良し3人組と言うわけではないのだろうか?



「遠野アウラ先生、最近小説は書いてるのか?」

「ペンネームで呼ぶのはやめろよ朔夜。……正直、あまり進み具合は良くないかな。忙しくて」


数年後だろうか?

大人びた朔夜と孝憲がいる。


「すまない。巻き込んで」


スーツ姿の朔夜に、白衣を着た孝憲が微笑む。


「俺自身が決めた道だ。朔夜が謝る必要ない。それより朔夜、気をつけろよ。相手はあの『白亜の城塞』だ」


宗教団体『白亜の城塞』。

法学部を出て弁護士となった朔夜は『白亜の城塞』の被害者救済に尽力していた。

心理学部の大学院を卒業後、精神病院でカウンセラーを勤めていた孝憲は、独立してカウンセリングルームを開き、朔夜が連れてきた『白亜の城塞』被害者のメンタルケアを担っていた。


「孝憲、お前こそ気をつけろよ。お前も連中に目をつけられてる」

「俺は戦う方は自信ないからなぁ……合気道でも習った方がいいのかなぁ……」

「そりゃいい。お前も少しは運動しろ」


数か月後、赤津 孝憲は姿を消した。



「赤津 孝憲は『白亜の城塞』に拉致された」

「赤津 孝憲は『白亜の城塞』の情報を知り過ぎた」

「赤津 孝憲は既に『白亜の城塞』に始末されているかもしれない」


こんな噂が流れていた。

朔夜は焦っていた。

精神病院でカウンセラーをしていた孝憲を、『白亜の城塞』問題に巻き込んでしまったのは自分だ。

朔夜は必死に捜索したが、孝憲は見つからない。


「だから私に電話をしてきたのか、花寺。お前は私を好んではいなかっただろう」


朔夜は大和に連絡を取った。

もちろん、大学に残って心理学の講師をしている大和が、孝憲の行方を知るなど考えてはいなかった。

孝憲を知る相手に愚痴を溢したい。

朔夜は既に疲労困憊だった。

大学卒業後は訪れる機会のなかった大和の部屋で、朔夜は大和が出したお茶を一気に飲み干す。


「孝憲は生きていると思うか?」

「生きていてもらわなければ困る。孝憲には……遠野アウラには『アンジャベル』を完成させてもらわなければならない」


『アンジャベル』は、孝憲が失踪直前に執筆して、小説投稿サイトに投稿していた作品だった。

そういえば、あの小説が更新されているかどうか確認していない。

孝憲が姿を消して、小説の更新も途切れたものだと朔夜は思い込んでいた。

まさかと思いつつ、取り出したスマートフォンを……朔夜は床に落とした。

身体から力が抜けてゆく。


「孝憲から小説を奪うお前に、孝憲は渡さない……花寺 朔夜」


冷笑を溢す大和。

その表情はマチルダの知る誰かに似ていて……。


…………孝憲?

その名前を思い返し、夢を傍観している私は、あの夢を思い出す。

私が死に、ラスティル王国が終わる、あの夢を。



「私はお前の模倣犯だからな。お前のように、紙の中での犯罪ではなく、実在の人物を手にかけた。孝憲の書いた小説の登場人物であるお前に、存在すらしないお前に狂わされて……私は」


あの夢の中で、金色の瞳のスピルスさんは、同じく金色の瞳のユスティートさんに、確かにそう告げていた。



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