05 厄災前夜[前編]
【夢/マチルダ・ピンコット】
これは、誰の夢だろう?
あまり見たことのない人物たちの夢だった。
*
「孝憲はまた講義中に小説書いてたのか?」
「今度のは力作!」
「……学業を疎かにするのは感心しないけど」
3人の青年がいる。
快活な印象の花寺 朔夜。
柔和な印象の赤津 孝憲。
冷静な印象の虎田 大和。
「俺、弁当あるから先に席取っとくな。お前ら学食だろ?」
孝憲という青年が抜けると、朔夜と大和の間には沈黙が落ちる。
仲良し3人組と言うわけではないのだろうか?
*
「遠野アウラ先生、最近小説は書いてるのか?」
「ペンネームで呼ぶのはやめろよ朔夜。……正直、あまり進み具合は良くないかな。忙しくて」
数年後だろうか?
大人びた朔夜と孝憲がいる。
「すまない。巻き込んで」
スーツ姿の朔夜に、白衣を着た孝憲が微笑む。
「俺自身が決めた道だ。朔夜が謝る必要ない。それより朔夜、気をつけろよ。相手はあの『白亜の城塞』だ」
宗教団体『白亜の城塞』。
法学部を出て弁護士となった朔夜は『白亜の城塞』の被害者救済に尽力していた。
心理学部の大学院を卒業後、精神病院でカウンセラーを勤めていた孝憲は、独立してカウンセリングルームを開き、朔夜が連れてきた『白亜の城塞』被害者のメンタルケアを担っていた。
「孝憲、お前こそ気をつけろよ。お前も連中に目をつけられてる」
「俺は戦う方は自信ないからなぁ……合気道でも習った方がいいのかなぁ……」
「そりゃいい。お前も少しは運動しろ」
数か月後、赤津 孝憲は姿を消した。
*
「赤津 孝憲は『白亜の城塞』に拉致された」
「赤津 孝憲は『白亜の城塞』の情報を知り過ぎた」
「赤津 孝憲は既に『白亜の城塞』に始末されているかもしれない」
こんな噂が流れていた。
朔夜は焦っていた。
精神病院でカウンセラーをしていた孝憲を、『白亜の城塞』問題に巻き込んでしまったのは自分だ。
朔夜は必死に捜索したが、孝憲は見つからない。
「だから私に電話をしてきたのか、花寺。お前は私を好んではいなかっただろう」
朔夜は大和に連絡を取った。
もちろん、大学に残って心理学の講師をしている大和が、孝憲の行方を知るなど考えてはいなかった。
孝憲を知る相手に愚痴を溢したい。
朔夜は既に疲労困憊だった。
大学卒業後は訪れる機会のなかった大和の部屋で、朔夜は大和が出したお茶を一気に飲み干す。
「孝憲は生きていると思うか?」
「生きていてもらわなければ困る。孝憲には……遠野アウラには『アンジャベル』を完成させてもらわなければならない」
『アンジャベル』は、孝憲が失踪直前に執筆して、小説投稿サイトに投稿していた作品だった。
そういえば、あの小説が更新されているかどうか確認していない。
孝憲が姿を消して、小説の更新も途切れたものだと朔夜は思い込んでいた。
まさかと思いつつ、取り出したスマートフォンを……朔夜は床に落とした。
身体から力が抜けてゆく。
「孝憲から小説を奪うお前に、孝憲は渡さない……花寺 朔夜」
冷笑を溢す大和。
その表情はマチルダの知る誰かに似ていて……。
…………孝憲?
その名前を思い返し、夢を傍観している私は、あの夢を思い出す。
私が死に、ラスティル王国が終わる、あの夢を。
*
「私はお前の模倣犯だからな。お前のように、紙の中での犯罪ではなく、実在の人物を手にかけた。孝憲の書いた小説の登場人物であるお前に、存在すらしないお前に狂わされて……私は」
あの夢の中で、金色の瞳のスピルスさんは、同じく金色の瞳のユスティートさんに、確かにそう告げていた。




