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吟遊詩人にでもなれよと馬鹿にされた俺、実は歌声でモンスターを魅了して弱体化していた。ギフト【歌声魅了】と先祖の水竜から受け継いだ力で世界を自由に駆け巡る!魔力無しから最強へ至る冒険譚~  作者: 綾森れん
序章:最弱から最強へ/Ⅰ、幼少期(6歳~)

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06、冬至の精霊祭と魔獣の襲撃

 九歳になった冬、ぼくはついに冬至の精霊祭で歌うという大役を任された。


 去年までは神父様がパイプオルガンを演奏するのを聴いた後、村人みんなで祈りを捧げていた。


「毎年、神父様が弾いてるあの曲、歌詞があったの?」


「もちろん。聖歌は教えを伝えるためのもの。全て言葉がついているんだよ」


 ぼくは古い手書きの楽譜を見ながら、精霊祭本番に向けて練習した。知っている旋律だから、そこまで難しくはない。


 当日、ぼくは聖堂脇にある小部屋でハミングしながら声を整えていた。暖炉の前で心を落ち着けていると木のドアがノックされ、ぼくの返事を待たずに開いた。


「ジュキちゃん、神父様からここにいるって聞いたのよ」


「ねえちゃん―― 儀式が始まるまで、まだずいぶん時間があるのに」


「髪結ってあげようと思って」


 姉は鞄から櫛やブラシを出して、古い木の机に並べた。


「あんまり派手なのはだめだよ」


 ぼくの服は白一色、母ちゃんが作ってくれた聖歌隊服だ。


「分かってるわよ。でもせっかくの晴れ舞台だもん。ほら、座って」


 姉はぼくのゆるく波打つ銀髪を、優しくブラシで梳かし始めた。


「左右の毛束を一房取って編み込んで、うしろに持って行ってハーフアップにするわ」


 ぼくにはまるで何を言っているのか分からない。十四歳になったアンジェねえちゃんは、お洒落に興味が出てきたようだ。だがその欲求をぼくで解消しないでもらいたい。


「できたわ! ジュキちゃん、すっごい美人さん!」


 姉は耳元で歓声を上げると、ぼくを壁にかけられた古い鏡の前へ連れて行った。


 くすんだ鏡面の中で、暖炉の火に照らされた銀髪が淡く発光している。髪型のせいでいつもより少しだけ大人びて見えるけれど、それは少女として、だ。


 姉に聞こえないよう小さく嘆息したとき、外が騒がしいことに気が付いた。


「どうしたのかしら?」


 怪訝そうに眉根を寄せて立ち上がった姉が、扉を開けて廊下をのぞいたとき、小走りに足音が近づいてきた。


「大変です、アンジェリカさん!」


 若者の声が聞こえたので廊下をのぞくと、眼鏡をかけた金髪の少年が青ざめた顔で立っていた。彼は確か神父様の甥で、聖職者見習いをしていたはず。名前はサムエレとか言ったっけ。


「森から魔狼(デモンウルフ)の大群がやってきたそうです」


「え、魔狼(デモンウルフ)って狼みたいな恐ろしい魔獣――」


 ぼくが思わず声を上げると、背の高いサムエレが眼鏡の奥から鋭い眼光で一瞥をくれた。冷たいまなざしにひるんで口を閉ざしたぼくのほうを、ねえちゃんが振り返って、


「そう。狼型の凶暴な魔獣よ」


「ダニエーレさんたちが止めに向かったそうです」


 サムエレはぼくから目をそらし、姉に視線を合わせた。


「父ちゃんが――」


 ぼくは思わずつぶやいた。黒い不安が腹の底からせり上がってくる。


「心配いらないわ、ジュキちゃん」


 ねえちゃんがぼくに歩み寄って、強く抱きしめてくれた。


「村と森の境に行ったのは、うちの父ちゃんだけじゃないもん。若者たちも、引退した元冒険者のおっちゃんたちも、みんな一緒なのよ」


 戦える者は皆、向かったんだ。自分が魔法を使えず、戦力になれないことが悔しい。


「私たちは大きな魔力を持つ竜人族。魔狼になんか負けないわ。ジュキちゃんも知ってるでしょ? 村のおっちゃんたちが大体、若い頃は冒険者だったって」


 ぼくはねえちゃんの胸に顔をうずめたまま、うなずいた。


「うん。冒険者は稼げるからだぞって、父ちゃんいつも話してるもんね」


「そうよ。小金持って村に帰ってきて小さな家でも建てれば、残りの人生は家庭菜園とか、こじんまりとした商店でもやりながら、ゆっくり家族と過ごせるってわけ」


 ねえちゃんは世間話をするかのように、わざと軽い口調で話した。ぼくを落ち着けるためだって分かってる。


 ふと顔を上げるとサムエレは仕事があるのか、すでに姿を消していた。


「ぼくにできること、何かあるかな?」


 すがるようなぼくの問いに答えたのは、ねえちゃんではなかった。


「ジュキエーレ、どうか君に歌ってほしい」


 開けっ放しだった扉から、代わりに神父様が姿を現した。


「君の声には不思議な力が宿っている。たけり狂う魔物を鎮められるかも知れない」


「ぼくの歌で、魔物を追い払えるってこと?」


「そうです。本来、魔狼は人里に降りては来ない。若い狩人が群れを怒らせたのです」


 神父様によると今回の襲撃は、経験の浅い村の若者が、魔狼の縄張りを荒らしたうえ、誤って幼体を仕留めてしまったのが原因らしい。


「私の風魔法で君の歌声を森まで運びます」


 神父様の言葉に、ぼくはしっかりとうなずいた。


「ぜひ歌わせてください。少しでも父ちゃんたちの役に立つなら」 


 神父様は村人たちに、彼が信じるぼくの歌声の力について、説明してくれた。教会内には魔狼を恐れて、子供や老人が集まっている。


 ぼくは聖歌隊席に立つと、今の自分にできることをしようと心に決めた。

次回「ジュキエーレ、村を救う」

ジュキちゃん、大活躍です!

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