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吟遊詩人にでもなれよと馬鹿にされた俺、実は歌声でモンスターを魅了して弱体化していた。ギフト【歌声魅了】と先祖の水竜から受け継いだ力で世界を自由に駆け巡る!魔力無しから最強へ至る冒険譚~  作者: 綾森れん
序章:最弱から最強へ/Ⅰ、幼少期(6歳~)

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05、歌声魅了が目覚めた日

 それからぼくは毎日聖堂に通って、神父様から聖歌を習った。


 神父様はパイプオルガンのストップを操作して、やわらかい音色を選んで伴奏してくれる。鈴を鳴らすようなぼくの声が、静謐な聖堂の隅々まで行き渡っていく。


「はるか昔、この世界が産声あげたころ、

 我らが四大精霊王はこの地を鎮め、

 空を清め、世界に光がふりそそいだ」


 聖堂の高い高い天井は昼なお薄暗い。だけどぼくのソプラノの歌声が飛翔すると、光の粉に満たされるようだった。


「悪しき存在(もの)を大海の果てに封じた」


 目に見えない精霊たちが皆、ぼくの歌に耳を傾けているようだ。


「奈落の底に眠りし暴虐なる魂よ、

 眠れ、眠れ、いついつまでも」


 聖歌の歌詞は竜人族に伝わる古い言葉で、ぼくたちが普段使う話し言葉とは違っていた。神父様はぼくに古代語の意味を一つ一つ教えてくれた。


「二度とその恐ろしき目を見開くな。

 光届かぬ奈落の底で、

 底無き深海の最奥で、

 眠れ、眠れ、いついつまでも」


 深海に封じられた魔神の伝承歌を最後まで歌って、ふとステンドグラスを見上げると、たくさん鳥の影が見えた。


「野生の鳥たちも、ジュキエーレの歌を聴きに集まってきたようだね」


 鍵盤を弾く手を止めてほほ笑む神父様の言葉に、ぼくの心は華やいだ。


 だが聖堂にやってくるのは、小鳥たちにとどまらなかった。


 その日ぼくは、教会の庭で掃き掃除をしながら、習いたての聖歌を口ずさんでいた。小鳥たちのさえずりに顔を上げると、やや離れた木陰に四つ足の動物が寄り添っていた。


 森に住む鹿が迷い込んできたのかな?


 目をこらしたぼくは、その白馬のような姿に息を呑んだ。


 一角獣!?


 眉間から長い角を生やしている。教会の書庫で見つけた「魔獣・幻獣・聖獣図鑑」には、滅多に現れない凶暴な幻獣と書かれていたはずだ。


 庭箒の柄を握ったまま動けないぼくのところへ、真っ白い一角獣は淡い光を放ちながら近付いてきた。


『美しき娘よ、歌いなさい』


 突然、頭の中に意識が流れ込んできた。


『お前の声をもっと聴きたい』


 目の前の一角獣が、深い海の色をした瞳でぼくを見つめる。


 きみが話しているの?


 一角獣はゆっくりとうなずいた。


 ぼくの歌を聴きたいひとがいるなら、それがたとえ人間じゃなくても、ぼくは歌うんだ。心を決めて、ぼくは両足でやわらかい落ち葉を踏みしめると大きく息を吸った。


「耳を傾けなさい、心をひらきなさい、我が子供たちよ」


 庭の風が動き、ぼくの声を森へと運んでいく。ざわめく葉擦れの音が、ぼくの歌に伴奏をつけてくれる。


「風の音を聞き、水の流れに身をゆだね、

 大地の鼓動にふれ、炎の中に真実を見よ」


 草花の匂いの中に、ぼくの歌声がとけてゆく。


 半刻ばかり歌ってやると満足したのか、一角獣は森へと帰って行った。


「幻獣まで魅了するとは」


 聖堂の柱の陰から、神父様がひょっこりと姿を現した。


「隠れていたんですか!?」


「すまない。一角獣は処女にしか心を許さないという。私が出て行ったら怒らせてしまうと思ってな」


「しょじょって何?」


 知らない言葉を尋ねただけなのに、神父様は目をそらした。


「穢れのない若者のことだよ」


 怪しい。きっと何か隠している。でも問いつめても、こういうとき大人はのらりくらりとかわすんだ。家に帰ってからアンジェねえちゃんに訊こう。


 七歳のぼくと違って十二歳のねえちゃんは、言葉の意味を知っていた。


「ぼく、男の子なのに!」


 ねえちゃんの説明を聞いたぼくは憤慨した。でも鏡の中には、去年から切っていないロングヘアをツインテールにした少女が映っている。


 ねえちゃんはぼくの銀髪をなでながら、


「幻獣をだませるくらいなら、病魔とかいう悪い精霊も寄ってこないでしょ」


 ポジティブなことを言う。確かにぼくは、最近あまり熱を出さなくなっていた。




 八歳になるとぼくは、村の葬式などの儀式で歌って欲しいと頼まれるようになった。


 村一番の長寿を全うしたおばあさんの葬儀で歌っていたとき、事件は起きた。


「偉大なる優しき精霊王よ、

 我らの願いに耳をお貸しください」


 中二階に位置する聖歌隊席から、ぼくは心を込めて鎮魂歌を歌っていた。昔、精霊教会への信仰がもっと盛んだった頃は、モンテドラゴーネ村にも聖歌隊が存在したそうだ。


 今は無き聖歌隊だけど、母ちゃんが白い布で聖歌隊服を作ってくれたので、儀式のときはそれを着ていた。


「祈りの歌と共に彼らの魂を

 その御心(みこころ)に受け入れてください」


 ぼくはいつもの明るい響きを抑えて、静謐な音色を心がけて歌った。おばあさんの葬儀に参列する人々の、心の襞に祈りの歌が染み入るよう一音ずつ大切に。


幾年(いくとせ)も思い出がめぐるように

 雨が川となり海へ(かえ)るように」


 聖歌が後半に差し掛かったとき、祭壇のうしろ――東の窓から太陽を十個集めたような金色の光が差してきた。集まった村人たちがざわめき出す。だけどぼくは集中を乱さず、亡くなったおばあさんの魂を自分の歌声で大空まで運ぼうと歌い続けた。


「今日天へのぼる魂がまたいつの日か

 この地に新たに息吹くよう」


「金翅鳥だ!」


 聖堂の扉が開け放たれ、葬儀に参列していない村人が飛び込んできた。


「伝説級の聖獣が教会の屋根に止まっているぞ!」


 あまり湿っぽい雰囲気ではなかったとはいえ、一瞬で厳粛な空気はかき消えた。


「ジュキちゃんの歌声が霊鳥を呼び寄せたぞ!」

「空まで届くような澄んだ声だからな!」

「声も顔も綺麗な美少女とかたまらん!」


 ぼくは美少女じゃない! 聖歌隊席から叫びたかった。でも波打つ銀髪を腰まで垂らしたこの姿では、なんの説得力もない。


 父ちゃんみたいな強い男になるという夢をあきらめたわけではなかった。でもいまだ魔法は使えないのだ。


 一方で歌の方はどんどん上達していくのが自分でも分かって、楽しくなっていた。


 九歳になった冬、ぼくはついに冬至の精霊祭で歌うという大役を任された。

次回「冬至の精霊祭と魔獣の襲撃」です。

大役を任されたと思ったら、村へ魔獣が襲撃に来る!?

そのときジュキの選択は?

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